第22話

 先ほどの土壁はまだ残っているのでそそくさと下着を着けるリゼの気配を背後に感じながら、待つ事数分。

「お待たせ!」

「次やったら壁なしで着替えろよ」

「えー!鬼畜!」

 こうでも言って圧をかけないと、また失敗されたら困る。色々と。

「三度目の正直!」

 三度目の前からリゼが消える。今度は跡に何も残っていない。

「や、やった!」

 成功したようだ。後ろから声が聞こえ、振り返る。

 そこにはパァァと顔を輝かせるリゼがいた。しかしすぐに顔を緩めるのをやめ、呟いた。

「さて、次は……」

 成功したというのに喜ぶのもほどほどに、すぐに次の行程へ進もうとしている。その意欲が少し羨ましいと感じる。

「ヘイン、もう少し向こうへ行ってくれる?」

「了解。……っと、これでいいか?」

「ばっちり、ありがとう!そこから動かないでね!」

 リゼに言われ、距離を取る。大体10メートルぐらいか。

 待機してると、リゼが再び土壁を作った。ちなみにさっき作ったのはまだ残っている。

 先程のは目隠しであるため俺たちの身長と同じぐらいの板状だったが、今度はリゼを覆い隠すように立方体でできている。一辺の長さは大体2メートル。

 これだけの大きさの土壁を即座かつ正確に作れるのは土属性クラスの上位でも出来るかどうかだろう。しかも自重で崩れて生き埋めにならないようにちゃんと設計して作られている。

「じゃあ、3秒数えたら行くよ」

 中からくぐもった声が聞こえてくる。

 3、2、1……と同時に眼前にリゼが現れた。数cm先に。

「うわぁ!?」

「きゃあっ!」

 驚いた表紙に尻餅をついてしまい、それに驚いたリゼもまた尻餅をつく。

 二人してお尻を押さえながら立ち上がり、そして顔を見合わせて、どちらともなく笑い出した。

「っはー、何はともあれ、成功してよかった」

「ふー、うん、無事壁も越えられたし、これなら問題なさそう」

「……にしてもすごいな。これ、もし理論化できたら物流に革命が起きるぞ」

「あー、でもこれ危険なんだよね……」

「そうなのか?」

「うん、移動先に何か物があったらそれを押し除ける感じなんだけど、それが押しのけられない物だったりするとどうなるか私も分からなくて」

「……もし壁があったりしたら、壁にめり込んだりするわけか」

「それで済むならいいんだけど、最悪潰されて、ね……」

「危ないな!そんな物練習するなよ」

「うん、使える事が分かっただけでいいからもう使う気はないよ」

「それがいい……万が一があったら大変だからな」

 旧知の中のリゼだ、もしもがあったら悲しい。実際服を移動し忘れるミスは起こしているし、何かの手違いをしないとも限らない。実際心配なんだよな。

「んー、でも、最後に一個だけ!試させて!」

「分かった、最後に一回だけな……」

 心配だとは言っても、こう見目麗しいリゼに上目遣いでお願いされると断れない。

我ながら甘いなと思いつつも、試させる事にした。

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