第20話

 必要書類を書き終えたリゼに手招きされ、二人で受付の窓口前へ立つ。

 リゼとは顔見知りなのだろう、俺は見たことがない職員にリゼがそれを手渡す。

 その職員はざっと目を通した後眼鏡をかけたその顔を上げ、こちらを見る。

 彼女は口角を少し上げたかと思うと、手に持った書類を少しずらして俺のネクタイの色を見るなり即座に口をへの字へと変えた。

「……リゼリアさん、付き合う男は少しは考えた方が良いと思うよ?」

「あいにく、そういう関係ではありませんよ。彼とは旧知の仲なだけです。今回の魔法の実験は危険なので、巻き込むのは頑丈な人にしようと思って」

「なるほど、ならよし」

 よくねえよ。

「……ん、特に問題なし。言っていいよ。じゃ、また出る時に声かけて。頑張って~」

 気だるげに手を振る職員を背に練習場の中へと入っていく。

 手前の方はいくつかのグループが使用していてそんなにスペースがないので、他の魔法に巻き込まれないよう注意しながら奥へと進んでいく。

「おいおい、いつもこんな感じなのか?」

「うん。まぁ多少はケガしても私が治せるから大丈夫大丈夫」

 威力は抑えられているとはいえ、発動している魔法の大半は攻撃魔法だ。もしも直撃したら痛いでは済まないだろう。

 俺はともかく、リゼに当たると危ないな。庇うように進んでいく。

「うん、ここらへんでどうかな」

 広い室内だけあって奥の方はかなりスペースが空いていて、これなら問題なさそうだ

「いいんじゃないか。よし、じゃあ始めるか」

「おっけー。最初は短い距離で試してみようと思うんだ。ちゃんと瞬間移動してるか見てて欲しいな」

「了解。気をつけろよ」

「じゃあ始めるね」

 そう言ってリゼは詠唱を始める。といっても非常に短いもので、すぐに唱え終わった。

 それと同時に、俺の視界からリゼが消えた。

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