第18話

 食事を終え、リゼの練習に付き合う前に一旦寮へ荷物を置きにいく事にした。

 ……部屋の前まで何故かリゼがついてきている。

 流石にそれはまずい、と言ったんだが、寮の外で待っている方が目立つしまずいんじゃない?と返され、ついてこられた。

 白ネクタイが寮に来る事も珍しければ男子寮を女子が歩いているのも珍し……いや、メリルが居るが、メリル以外の女子が歩いているのは珍しい。誰かに見られたら連れ込んでいると思われるだろう。ましてやこっちは黒ネクタイ、相手は白ネクタイだ。やっかみから乱暴狼藉を働くために連れ込もうとしているようにも見えるかもしれない。

 ……隣にメリルがいて助かった。見た目女子のこいつと並んでいればこいつの友達のように見えるだろう。

 荷物を置くだけなのでドアを開けて持ってた鞄を玄関先に置き、すぐに出る。

「待たせた」

「じゃあ行こっか」

「どこで練習するんだ?例の森か?」

 例の森は学院からだと結構遠い。物流にも使われるような飛行魔法でも使わないと骨が折れるだろうが、それはそれで飛行申請が必要なので面倒だ。

「あそこは障害物が多すぎて危ないから、学院内の屋内練習場にしようかなって」

「行ったことないな。……場所も忘れた」

「ヘインには必要ないところだもの、仕方ないよ。案内するね」

 寮を出て学院へ向かって歩き出す。普段目にする短い通学路が、リゼが居るだけですごく新鮮に感じるから不思議だ。

「リゼはよく練習場へ行くのか?」

 歩きながらリゼに尋ねる。

「うん、シアとよく使っているよ。というよりも、学院に来てからは魔法の練習はずっとそこでやってたかな。ほら、私とシアって一年次同じクラスだったから」

「……意外だな。リゼが魔法の練習をずっとしてきたなんて」

 師匠との修行中は結構サボってた……というよりは出来ることをさっさと終わらせて後は休んでいるような、天才タイプだったリゼ。

練習なんてめんどくさい、出来ればいいじゃないという精神のもとで行動していたリゼが努力してきたなんて本当に意外だ。

「昔、一度私なんてまだまだなんだって思い知らされたから。私一人で全て解決できるぐらいにならないと、って思うとね。自惚れてなんていられない」

「……偉いな。俺とは大違いだ」

 おそらく、リゼが言っているのはあの事件だろう。俺達が魔法学院に入学して、半年ほど経った頃の事だ。

 あの日、俺は魔法を真面目に使う事をやめた。酷くバカらしくなったからだ。

 一方でリゼは自分の無力を悔いて、今まで努力してきた。

 立ち止まった者と歩き出した者。

 その積み重なった距離の差が、黒と白のネクタイに現れているような気がした。

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