第16話

 ここの食堂は王立魔法学院の食堂ともあり、主に寮生向けとはいえ料理人も腕利きを揃えているようでどんなメニューも非常にレベルが高い。

 日替わりランチが一番人気だが、俺は大体いつもカレーを注文している。こっちもこの食堂の看板メニューなのだ。

 1000年前に魔王を倒したという大魔術師が伝えたとされるこの料理は、貴重なスパイスを何種類もふんだんに使用した贅沢なものである。

 が、魔術師達が大魔術師にあやかろうとこぞって求めたため、今では原料の生産も流通も国が主体となって確立させ、結果このような場所でも安価で提供できるようになったと言われている。そのためか、貴族は庶民の食べ物とバカにして逆に食べないとかなんとか。

 ちなみに慣れていない人が食べると刺激が強すぎて劇物と間違うらしい。俺は師匠がよく作ってくれていたので慣れているが、シロノアからは「お前よくそんなん食えるよな……」といつも言われる。

 実は貴族であるリゼも昔師匠との修行中に食べていた。修行後によく師匠が作ってくれたものだ。今考えるとリゼにも振る舞っていたあたり、リゼの家の人とも話をつけていたのだろう。大貴族相手にどうこう出来る師匠、今更だが何者だったんだろう。旅の魔術師とは自称していたが。

 俺達は修行の一環としてカレーを作らされた事もある。身体や道具を一切使わず、食材を魔法のみで調理するというものだ。切る、煮る、混ぜる等の行程を道具を使わず空中で行う事は口で言うのは簡単だが実際にやる事は非常に難しい。

 物を宙に浮かせる魔法、水を呼び出す魔法、火を呼び出す魔法、風を呼び出す魔法を複合して使う必要があるため、ベテラン魔術師でもできるかどうかというこの修行を俺とリゼはやらされていた。

 ちなみにこれで出来上がったものが今日の食事、という事で結構必死だった。そのおかげか、俺もリゼも一ヶ月も経てば出来るようになったな。

 閑話休題。リゼも懐かしくなったのか、俺と同じくカレーを選んでいる。それを見たメリルが「え、マジ?」って顔をしている。

「え、リゼはカレー食べたことあるの?確かに慣れたらやみつきになるけど、その、お嬢様が食べるようなものじゃ……」

「大丈夫、私カレー大好きだから」

 親指立ててグッ、っとドヤ顔で返すリゼ。

「ああ、リゼは本当にカレー好きだから大丈夫だ。心配してくれてありがとな」

「そうなんだ……ちょっと意外」

「初めて食べた時のシロノアの反応見るとそう思うのもわかる」

 食堂で初めてカレー食べた時のあいつ、水5杯飲んだからな。貴族にしては珍しい思想の持ち主のあいつは、自分で注文したものは綺麗に食べ切るという信念があるようで、大粒の汗と鼻水と涙で端正な顔を歪ませながら食べ切っていた。

 1000年も経つとカレーにも色々アレンジされた種類が現れ、スパイスを控えめにして蜜を入れた甘口や逆に劇薬のようなスパイスを入れた辛口等辛さのバリエーションは確かに豊富なのだが、ここで提供しているのは件の大魔術師が作ったという原初のカレーを忠実に再現しているものだ。別段辛さを追求しているものではない。

 正直、辛みに弱いシロノアを見ているのは面白かった。あいつには悪いが。

 シンプルなためか師匠の作ってくれたカレーとよく似ている味がする。まぁ、最もオーソドックスなカレーだし、別にここに限らず似た味のカレーを出す店は探せば幾らでもあるだろうが。

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