第10話

 魔法学院は元々魔法の授業が非常に多いが、五年生からは顕著だ。それまでは週の授業の五割程度だったが、これからは八割以上魔法の授業になる。その殆どが事実上の自習、ましてや意欲を欠く落ちこぼれ達となると無意味な時間をひたすら過ごして行く事になる。真面目に自己研鑽に励む者など皆無だろう。

生まれ持った才能が全てと言われる魔法で、今更努力をしたところでどうしようもないことなど魔法学院生なら全員知っている。

 この“今更努力しても無駄”を説明するためには魔法の原理から辿る必要がある。

 基本的に魔法の発動には段階が必要である。自らが持つ魔力をエネルギー源として現実改変を行うのが魔法だが、思っただけでは魔法は発動できない。思った事を現実にするために魔力をどう行使するかをちゃんと指示する必要がある。そのプロセスとしてよく用いられるのが詠唱だ。他には魔法陣や魔石を用いる方法等がある。

 実行は幾つかの魔力の発動を組み合わせて行う。例えばフレイムであれば「熱を放出する実体を持たない存在を一定範囲に呼び出す」といった処理を経ている。従って、放出する熱量、存在の召喚、召喚範囲の三点において魔力の発動を指示しており、それらを組み合わせている。実際にはそれらの維持や存在の移動といった処理が追加で入るため、より複雑にはなるが。

即ち魔法の努力はこれら基本的な魔力の行使、「基本指示」と呼ばれるものをいかに効率よく組み合わせるか、或いは基本指示の実行自体をいかに早めるか、そしてどれだけ正確に行使できるかをつきつめるということになる。

 余談だが、基本指示の基本は“よく使われていること”を基準としている。それに該当するかどうかは魔法省が制定しており、リストになっている。そのリストにない指示は「例外指示」と呼ばれている。

 問題はここからである。この基本指示を覚えるところから魔法学院のカリキュラムは始まるが、覚えただけでは意味がない。実際に行使出来ないと意味がないとされている。

 基本指示は言わば身体を動かすようなものだ。意識しなくても出来るものも多いが、意識しないと出来ないこともあれば、反復練習の結果無意識でも出来るようになる事もある。

 当然ながら基本指示にも先天的な得手不得手が存在する。その得手不得手によって行使できる属性に大きな偏りが生まれ、魔力があるからといってどの属性の魔法も使えるということにはならない。

例えばフレイムの例だと放出する熱量を指定する基本指示が不得手だと燃えるような熱量は指定できず、発動してもせいぜい「なんだか暖かいな」と思える程度になる。

 得手不得手の理由として、同一の基本指示であっても行使するために必要な魔力量が人によって違う事が挙げられる。人間の域を超えた魔力量であればゴリ押しでどの属性も扱えるが、人間の域であればその不得手を超越する事はできない。

 ちなみにだが光属性魔法は基本指示に非常に魔力量を要求するものが存在する。それが原因で光属性クラスには魔力量が多い人間、言い換えるとある程度ゴリ押しでもいろんな魔法を発動できる、優秀な素質を持つものが集まることとなる。

 話を戻すと、無属性クラスに配属されるような人々はそんな主流属性に繋がる基本指示群が殆ど不得手であるという事だ。

元々の魔力量が劣るか、魔力量は足りるが基本指示の燃費が悪いのどちらかであり、こればっかりはどうしようもない。

座学で幾ら学んでも、不得手な基本指示を要する魔法を実際に発動しようとどれだけ頑張っても、使えない魔法が使えるようにはならない。従って、今更努力しても無駄ということになる。

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