第9話

 入ってきた教師は俺達も知っている顔だった。男子の寮長だ。

「はい、皆さん揃っているようですね。ようこそこのクラスへ。担任のシラヌイです。男子の皆には今更自己紹介する必要もないでしょうが、女子の皆さんははじめまして。今後三年、あなた達の担任として指導監督を行います。どうぞよろしく」

 シラヌイ先生がかけているメガネをクイと上げ、自己紹介を終える。

 ちなみに学院では地方から来た生徒が主に寮に入るが、その寮に入るような地方出身者はほとんど無属性クラスに配属される。逆にいうと無属性クラスにはほとんど寮生しか居らず、そこで見覚えのある生徒しかいないという事で先ほどのような自己紹介となったと考えられる。

「さて、皆さんは無属性クラスと言うわけですが……知っての通り、このクラスに配属されたという事は事実はどうあれ皆さんの魔法が劣っていると見なされている事を暗に意味しています。しかし、私は皆さんを決して見捨てはしません。そもそも、この学院に入学できた時点で皆様は普通の人々とは違う、魔法という才能を持って生まれてきたという事です。上には上が居るのは当然の事です。皆さんは、十分恵まれた才能を持って生まれてきた、特別な人間です。どうかその事を忘れずに、決して自暴自棄にならずに、残りの三年間、そして今後の人生を謳歌して頂きたいと思います。」

 続けてシラヌイ先生はこう述べた。

 無気力なクラスメイトを焚きつけるためのセリフだが、シラヌイ先生はかつて神童と呼ばれ、そのまま光属性クラスを卒業した程のエリートだ。今の無気力な彼らにとってその言葉は歪んで受け取られる可能性も考えられる。

 事実、周りの雰囲気は今のセリフを聞いて明るくなる事もなく、陰鬱な空気のままである。

「えー、では続いてですね、カリキュラムの説明に入ります。五年生からは各属性に合わせてより実践的な魔法を学ぶわけですが、無属性クラスでは多属性と違って一つに絞ることができません。ユニークスキルの使い手も何人か居ますので。従って、皆さんには基本的に各自で学びたい事を学んでいただきます。勿論私が授業を行う事もありますが、主なカリキュラムではありません。道徳や簡易魔法の応用といった、魔法が使える者としての基本的な部分のみを講義として受けていただきます。各々の魔法自体の研鑽は各自で考えてください。と言っても当然私は監督及び指導を行いますので、質問等があれば何でも言ってください」

 要するに放任主義という事か。来るもの拒まずではあるが、先生の方から指導しに行く事はないと。

……なるほど、確かにこれは虚無の無だ。

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