第7話

「どうしたの教室をキョロキョロして。気になる子でもいた?」

 教室を見渡していた俺にメリルがニヤニヤしながら聞いてくる。そういうつもりじゃねえよ、とぶっきらぼうに返す。クラスは男子と女子がちょうど半々ぐらいだ。魔法適性には男女差が無いのでごく自然な事ではある。

「そうだよねぇ、ヘインは男の方が好きだもんね」

「そうなんですかヘインさん!?」

 カレンが食いついてくる。いや、俺は女の子の方が好きだよ……。

「えー、でも僕がこの姿と男の時だと、明らかに男の時の方が距離が近いじゃない」

「そりゃ見た目だけは美少女なんだから近づきにくいに決まってるだろ……」

「そう?ボクは気にしないけどなー」

「俺は気にする……」

 人の事を揶揄って満足したのか、メリルは「トイレ行ってくるー」と言って教室から出て行った。果たしてどっちのトイレに向かったのか、非常に気になる。多分男子トイレだろうけど。

「それでヘイン、どの子が気になったんだ?ちなみに俺はあの子なんてなかなか可愛いと思うぞ」

 シロノアまで乗ってきた。指差す方向には確かにストレートヘアーの可愛い子がいる。

「可愛いも何も、あそこにいるのお前の嫁じゃん。惚気かよ」

「げぇっ!?」

 指差した先にはシロノアの婚約者、イーシアが居た。今までのツインテールと髪型が違うし制服も変わったけども、いや、気づけよ……。

 シロノアの婚約者になれるぐらいであるのでやはり彼女もかなり高貴な名門の令嬢であり、シロノアとは違って非常に優秀な魔法学院生である。火属性の魔法に長けていることで有名だが、恐らくは光属性に配属されるものだと思っていた。光属性クラスには他属性クラスのトップよりその属性を扱える者がそれなりにいるからだ。

 そんな彼女がなぜこんな無属性クラスに……?と疑問に思ったが、どうやら別にこのクラスに配属されたわけではないようだ。既に白いネクタイをしている。

「あ!やっぱりここにいたわねシロノア!あなた試験サボったでしょ!!」

「ち、違うんだイーシア!どうせ何やっても俺はここだったから……!」

「全く、あなたって人は!この私の許嫁としての自覚を持ちなさい!」

「お、おい、待て、その手は嫌な予感がする……!」

 イーシアが炎魔法を発動しようと手をかざす。見慣れた光景なので何をしようとしているかすぐにわかる。

「お仕置きが必要ね!」

「いやお前の火力は洒落にならんって!」

「私、光属性魔法は結構得意なのよ!安心して怪我しなさい!」

「ちょっまって話せばわか……ぎゃあああああああああああ!!!」

 イーシアの手から閃光が放たれると同時に魔法が発動。火属性魔法の基礎魔法「フレイム」で、効果は任意の範囲の燃焼。シンプルな術だが、燃焼範囲や燃焼温度はコントロールが難しく、術者の技量が試される魔法でもある。「フレイムに始まりフレイムに終わる」と言葉を遺した伝説的火属性魔法使いが居たとか。

 火属性の魔法に長ける彼女だからこそ、この狭い教室で綺麗にシロノアだけをこんがりミディアムレアに焼ける。本来は全身火傷で死に至る致命傷だが、彼女が続けてかけたヒールで彼の肉体は元どおりになった。

 ……彼の将来の夫婦内での力関係を思うと、同情するしかない。

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