第5話

「おはよう。新学期早々遅刻ギリギリだねえ」

 教室に入ってきた俺に気付いたのか、美少女に声をかけられる。

「ようメリル。今日はそっちなんだな」

 こいつは変身魔法のプロフェッショナル。現在の見た目は美少女だが、その日の気分で性別ごと外見を変えてくるため、本当の性別は本人以外知らない。

 一応、学院への入学手続き時には男性の外見で居たために学生寮は男子部屋、それも隣の部屋である。

 悪趣味なこいつは挨拶の時に今と同じ(と言っても今より幼い)美少女の姿で来たため、非常に挙動不審になった記憶がある。今でもたまにからかいの材料にしてくる程度には悪い意味でのいい性格をしていやがる。

 まぁ、なんだかんだでつるむようになり今に至る。親友と呼んでも差し支えないはずだ。

部屋が隣のよしみで普段はよく一緒に登校しているのだが、今朝は俺が寝坊しかけたので別々に登校した。

「それにしても元神童が虚無落ちとはねぇ、期待外れもいいところだろうね」

「これでいいんだよこれで。勝手に期待されたこっちの身にもなれってーの」

 元神童。それが俺に与えられた不名誉な称号。

 幼少期から学院生並みの魔法が使えると鳴り物入りでこの学院に入学したものの、定期的に行われる試験や実技訓練ではてんでダメ。終いには過去の話は全てでっち上げやインチキなトリックを用いたものではないかと言われる始末。元神童と呼ばれるだけマシな方で、酷い時には「チート」なんて言われる。インチキ、卑怯、そういう類の蔑称だ。

 実際に昔は全属性の魔法を使えた。それも学院生どころか 国家魔術師と比較しても遜色無く。しかし、あるきっかけのせいで魔法を使うのがバカらしくなってからは適当にやり過ごしている。

「よおお前ら。やっぱりこっちだったか」

 聞き慣れた声が背後から聞こえる。

「おっすシロノア。そういうお前もここだと思ったよ」

「まぁな、どうせ結果変わんねえって思って一日で全部の試験受けたからな」

 もう一人の物好きお前かよ、と思わず心の中でつっこむ。まぁ確かにこいつは家柄もいいし魔法使いとして大成する必要もないか、と自己完結した。

 こいつはシロノア。王家の血を引く貴族の嫡男で、非常に身分が高いが、通常なら魔法適性が平均的に高いとされる貴族の中では魔法の才能に恵まれずやさぐれて今に至る。その代わりと言ってはなんだが体術は滅法強い。嘘か本当か、山で遭遇した魔獣を魔法を使わず肉体のみで倒したと言われている。

 彼がやさぐれた原因は彼の姉にもある。この学院の主席卒業生で現在は光魔法を扱わせれば世界でも五本の指に入ると言われる国家魔術師にまで上り詰めた。肉親にそのような存在がいれば、自身の凡才に苦悩する事は想像に難くない。

 先述の通り非常に身分が高いが俺たちみたいな平民とも気軽にかつ対等に接してくれる奴で、メリル同様親友と呼べる存在だ。二年生の時に同じクラスになってからは俺を入れたこの三人を中心に遊ぶことが多かった。

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