第4話

 今日から五年生が始まるというのに寝坊して遅刻ギリギリの遅い時間になってしまった。

そのせいで振り分け結果の受け渡しを行う、校門から校舎までの道に存在する掲示板の前には殆ど人影もない。

 振り分け結果の全体は明示されず、各人にのみ結果が知らされる。振り分けられてしまった後はどのクラスに誰がいるのかはいずれ分かることだが、現時点では俺がどこに配属されたのかを知るのは同級生には居ないわけだ。といっても、俺が配属されるクラスはもう見当がついている。

 設置された簡易テントに居た担当の職員に学生証を掲示し振り分け結果を受け取る。

その結果は予想通りで、俺はどの属性にも配属されない無属性クラス、この学校で言う「虚無の無」「落ちこぼれ」への振り分けとなった。試験を適当にやったので当然だ。

振り分け結果と同時に渡されたネクタイをここでつけるように言われ、その通りにする。色は黒。

そう、ここ魔法学院では五年生になると制服が変わる。

国中から素質があるものを集めている為に平均で一学年に千人ほどもいる魔法学院では、生徒の区別をつけやすくするために学年と専攻する属性によって制服が分けられており、属性ごとにクラス分けされる区切りが五年生への進級時であるため、同時に制服も変わるというわけだ。

 そのため前半の四年間と後半の三年間では制服のデザインが大きく変わる。前半では学年ごとに一部の色の違う制服を、後半ではその色を引き継ぎつつ更に各属性を色で表したネクタイを着用する事になる。

ネクタイの色はそれぞれ火属性が赤、風属性は緑、水属性は青、土属性は茶色、電気属性は黄色、光属性は白、そして無属性は黒となっている。

これはあくまでクラス分けの話であり、これら以外にもいくつか分類があるが、主流属性以外の魔法適性が高い者も大体無属性に配属される。

 もっとも、主流属性以外の魔法で役に立つ魔法などほとんどないと思われているため、そのような理由で無属性クラスに配属された者も役立たずのユニークスキルしか使えないとして蔑みの対象になる。

 その象徴として黒ネクタイはうってつけで、同時に渡された黒ネクタイを受け取る時見た職員の顔もどこかこちらを蔑むようなものだった。無理もない、教師でなくてもこの学院の職員になるためにはこの学院を卒業している必要があるからだ。おそらく、今は事務職に就いている彼女も黒ネクタイとバカにしていた側なのだろう。

 俺たち無属性クラスはそういう侮蔑を今後三年間、下手したら卒業後もずっと言われ続けるわけだ。 

悲しいが、これが人間って生き物なのかもしれない。誰かを見下して優越感に浸らないと、自身に上位互換がいる現実に耐える事が出来ない者は想像以上にいる。

 魔法という天賦の才に大きく左右されると考えられているもので優劣を決めるこの魔法学院では、劣等感に苛まれる者が非常に多く、比例してその劣等感を他者にぶつける事で解消している者も多い。生徒の殆どが貴族の出自であるため自分にプライドを持っている奴が多いのも原因だろう。

 一応、この世界の全てが魔法という法則で動いているわけではない。魔法を効率よく使用するためにも事象の真理、そして人間として必要な教育を当然学ぶ必要があり、従って国語、理科、数学、社会、体育、道徳などのような授業もある。

そちらもテストを行い点数によって優劣を決めるのだが、その結果が魔法よりも優先される事は滅多にない。

 学問は適性が全くなく魔法が使えない人間がやるもので、魔法学院に入学しているのに学問に縋る事は逃げだとまで言われている。

更に不幸な事に、現在の同学年の魔法の首席は、学問でも一位である。両方で頂点に立つ者の存在が学院内での劣等生の立場を更に貶める要因となっているのだ。

そんな劣等生の代名詞である無属性クラスの教室のドアを開けると、そこには腑抜けて無気力な顔が並んでいた。早くも人生に絶望しているような、そんな顔。

これは確かに虚無に感じる。このクラスに存在価値はあるのか?

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