2:「成人と、冒険職鑑定―②」
「父さんが俺の後ろに付いてまわってるというのは、本当ですか?」
「ん?やばっ、聞こえてたのかい!?」
「そりゃあもう、きっちりと」
橙色の髪色をした剣士っぽいお兄さんは、あははといって誤魔化そうとする。
しかも、「やばっ」なんていっているので、これはもう確定とみていい。
「……だからかー」
実は最近、というか前からだけど、ふとした瞬間に視線を感じる事がある。
たとえばお使いの時。
たとえば遊びに行った時。
たとえばお店の武器や防具なんかを見てまわってるとき。
店の中に入った瞬間だったりとか、道の角を曲がるときに、嫌ではないんだけど独特な視線を感じていた。
それがこのギルドの人たちのものなのか、はたまた父さんのものなのかはよくわからない。
でも、危ないものじゃなくて良かった。
地味に気になっていた事なので、知る事ができて安心した。
そして、そろそろエレンノーラさんも父さんをいじるのに飽きたのか。
くすぐったい力加減で、俺の背中をつついてきた。
「鑑定、しちゃおっか!」
彼女は、給仕服?のようなギルドの制服を着崩して胸元を半開きにしつつも、まるで気にしていないようだ。
俺はきにするけど。
何をきにするかって?
そんなの決まってる。
だって、見えちゃいけないものが見えそうなわけじゃん?
エレンノーラさんの豊満なアレがさ。
いや、見ようとしているわけじゃない。
見えてしまうから仕方ない事なんだ。
ってことで、いただきます。
「えーと、まずこの水晶球に触れてくれる?」
エレンノーラさんは、カウンターの横にある大きな水晶玉を手で指し示す。
水晶球はその周りを覆うように金細工が施されているが、底部を大顎をあけて支えるドラゴンがとぐろを巻いて巻きついているという微妙なデザインなので、正直触りずらい。
生きているわけではないだろうが、噛みつかれそうだ。
しかし、そんな状況だろうと俺の視線は彼女の胸元にくぎ付け……すみません、そんな目で見ないで父さん。
「こう、ですか?」
俺は消沈しつつもそれを気取られぬように口角を上げ、水晶球に触れる。
「はい、これで水晶球の中に色と文字が浮き出るから、それまで待つ感じね」
「手は離していいですか?」
カウンターの高さが胸元ぐらいなもので、それより高い位置にある水晶球に触れている今の姿勢は、かなりつらい。
できればこの体制を保ちたくはないが、エレンノーラさんは何言ってるの?みたいな顔をしている。
「ダメ。結果が出るまで待ってね!」
マジかよ。
俺、このまま死ぬのかな。
出来れば父さんと母さんには別れの言葉、伝えたかったな。
そうだ、幼馴染のあいつ、元気かな。
防具店のあのおじさん、結婚できたかな。
……ええいっ、長くない!?
そう思って心の中で足を踏みならしてその時を待っていると、次第に真っ黒な霧のようなもやが水晶球の中に充満し、不思議な文字が浮かんでくる。
「あ、なんかでてきましたよ?」
「お、来た来た。まだ手は離さないでね?」
うげ、まだ続くんですか、エレンノーラさん。
もう腕が限界ですよ、ええ。
このつらさで渋い顔をしているだろう俺の顔には目もくれず、彼女は水晶球を凝視する。
そしてにらみ合いっこすること数分。
さすがにもう腕が感覚を失ってきていたので、俺は口を開くことにした。
「わかりましたか?」
「一応。でも、こんなのおかしいわよ」
「はい?」
あせるような彼女の顔に、一滴の汗が伝う。
そこまで気温は高いわけではないので、熱でもあるのだろうか。
「大丈夫ですか?」
「私なんかよりあなたよ!――だって、あなたの冒険職適性は!」
さぁて、どんな冒険職なのだろうか。
なにも関心が無いように平静を装っていたが、ここで思わず口元が緩む。
俺は唾を飲み込み、その先の言葉を待つ――――。
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