3:「剣聖の提案」

「レイ君。君の冒険職の適性は……『呪術師』、なの」



 その一言で、ギルドハウス内がざわめく。

 それほどすごい冒険職なんだろう。



「父さん、やりましたよ!」



 俺は思わずにやけが隠せない。

 誰かに喜ばれるって、やっぱり気持ちいいな。



「あ、ああ」



 それを聞いた父さんは驚愕きょうがくで話す事も出来ない様子だ。

 それだけ言って呆然ぼうぜんとしている。


 父さんが驚くだなんて、これは期待できる。

 こんな皆が騒いでくれるくらいなんだし、どんな凄さがあるのか。

 気になるので、俺は早速聞いてみた。



「呪術師って、一体どんな冒険職なんですか?」



 未だ水晶球に張り付いているエレンノーラさんの背に質問する。


 はっとした表情の彼女は、なにか誤魔化すようにしどろもどろに俺のする質問をかわした。

 そのなかで、『呪い』と呼ばれるものを相手にかけて戦う事や、戦闘系ではない事が分かったけど、それだけ聞いたらとんでもなくお荷物に聞こえる。


 ちがう、ここからがとんでもなく強いんだ。

 ……きっと。

 


「つまり、パーティーの中ではどういう役割をこなすんですか?」



 期待をこめてっ、俺はズバリ話の核心を突く。

 正直ここまでもったいぶられるのはなにかあるんじゃないのかと思うけど、あまり長話をしていても意味が無い。


 できれば、良い話であってほしい。

 そう思うだけだ。



「レイ君、驚かないでね。落ち着いて聞いて」



「はい。覚悟は出来てます」



 ごくり。

 唾を飲み込んで自分の心臓の音を確認する。


 しかし、準備を整えている俺とは正反対で、エレンノーラさんはとてもきまずそうだ。

 目を中々合わせてくれないし、後ろで指をからませて身体を揺らす。

 俺には落ち着いてって言ったのに、彼女は中々落ち着かない。

 なんか嫌な予感がする。

 

 いいや、そんなことない。

 首を振り、自分の考えを否定。


 彼女が口を開くのを待つ。

 だが――、



「実は、呪術師っていう冒険職は、その数こそ少ないのだけど、最弱と呼ばれているわ。パーティーでも出来る事は少ないし、一人で出来る事はそれよりももっと。本当に限られてしまう」



「ど、どういうこと……ですか?」



 最弱……?

 いやいやいや、ありえないだろそんなの。

 父さんも母さんも全く違う冒険職なんだから、俺だけ仲間はずれみたいじゃんか。


 ははっ、冗談はよしてくださいよしこさん。


 でも、エレンノーラさんはなお真剣な顔で俺に話す。



「あのね、本来ならこんな事はないの。ただ、ね。君は運が悪かった」



「ありえませんよ……」



 そんなの変だって、笑い飛ばしたい。

 でも、彼女の顔を見ているとそんな事を出来るわけがない。



「そもそも呪術師というのは、死霊術師なんかと同じ部類に含まれる、系統の無い冒険職なの。

遺伝とかそういったものに関係なく、長ーく続く家系だとかで突然生まれる感じのね」



「あぁ……」



 本当の事を言っている目だ。

 俺はそう思った。


 父さんと剣の打ち合いをしているときに目にする、父さんの目に似ている。



「じゃあ俺は、冒険者になれないんですか?」



 非常に応えずらい質問であるのは分かっている。

 でも、肯定してほしかった。


 俺は何を言われようと冒険者になるつもりだ。

 だけど、無理だ無理だといわれる中で、どう続くと言うのか。



「…………」



 周りは、エレンノーラさんは、沈黙する。

 別に誰が応えてくれたっていいというのに。


 一言でもいい。

 なにか――、



「なれないわけじゃない」



 その静寂を破った誰か。

 床が少しきしむ音がそれに続く。



「父さん!?」



 顔も確認していない俺だが、誰かはすぐに分かった。

 父さんだ。

 父さんの歩く音、リズム。

 俺は完全にそうだと確信する。



「なれないわけじゃあないが、まぁそれなりに伴う危険は増すな」



 俺の隣で腕を組み、ため息をつく。

 父さんは今日にいたるまで、毎日のように俺に冒険者になりたいのかと聞いてきた。



「……父さんは、わかってたの?」



「なんとなくだが、そんな気はしてた。冒険職が俺に似て剣系統なら、もっとお前の剣は成長が早いはず。それに、お前は小さなころから魔法は一切使えなかった」



 本当にこんなことになるとは思わなかったと、そう付け加える父さん。



「でも、俺は冒険者になりたい」



「いいぞ」



「やった――!」



「だが、一つ課題がある。それをクリアしたなら、俺はそれ以降何も言わない事にする」



 妙にあっさりと認めてくれると思ったら、やっぱりそういうことになるか。


 しかし、どうしようもないな。

 俺は呪術師という最弱職である以上、何をするにしてもそれをこなすしか道はない。

 冒険職適性が違っていれば、また違ったんだろうけど。



「どんな課題ですか?」



「簡単だ。モンスターを倒してこい。お前ひとりの力でな」



 あーー、なんとかなりそうかな?

 不安だけど、俺は腰に差す剣の柄を握り、頷く。



「わかりました。絶対に認めさせます、父さん」



 手が微妙に汗ばむ。

 でも、いくしかないんだ、俺。

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