第6話 親友
風の精霊と土の精霊。
相性の良いとは言えない属性同士であるが故に、幼い頃からそれなりに喧嘩や衝突も繰り返してきた。
しかし、それでもラウドはリーズにとって唯一無二の、親友と呼べる存在だ。
「正直、オレだってお前の気持ちは理解できる。むしろ一緒になってお前の姉ちゃんを捜してやりたいくらいだ。でも……」
精霊王の命令は絶対――。
ラウドはリーズの幼馴染。
それゆえ、リーズの姉とも幼い頃からの顔見知りだ。
姉の仕掛ける
それにラウドは、普段お調子者と呼ばれているほど、明るく能天気な性格だ。
その彼のこんなに沈んだ表情と態度を、リーズは見たことがなかった。
リーズの脳裏に、一瞬だけ「精霊界に帰る」という選択肢がよぎる。
だが今帰ったところで、結局悶々とした日々を送ることになるであろう未来を瞬時に想像し、リーズはその選択肢を即座に脳内から消し去った。
何より、人間界に来てまだ何もしていないのだ。
法を犯してまでやって来て、ここでおめおめと帰るわけにはいかなかった。
「お前には、本当に悪いけど、俺は――」
リーズは悲愴な面持ちでラウドを見据えた。
そのリーズの言葉を最後まで待たずして、ラウドもまた、似たような表情でリーズを見つめ返す。
「やっぱり説得は無理か……」
まるで最初からわかっていたかのように、ラウドは苦笑しながら諦めの言葉を吐く。
「お前の決意が変わらないのなら、方法は一つしかない。――実力行使だ」
ラウドの金色の瞳が妖しく光る。
それと同時に、ラウドの両拳に黄土色のオーラが
「ちょ、ちょっと待て! お前人間界で勝手に精霊の力を使うなんて何を考えてるんだ! 違法だろ!」
人間界に来て早々、風の力を使ってしまった自分のことは棚に上げ、リーズはラウドを非難する。
基本的に精霊は、人間界で勝手に精霊の力を使うことは禁止されている。
自然の流れに影響を及ぼしてしまうからだ。
「大丈夫だ。それに関しては精霊王様から許可が出ている。『手段は問わない、何としてでも、精霊の力を使ってでも連れ戻せ』ってな」
「マジかよ!?」
ラウドの返答に、リーズはただ驚愕した。
(そこまでして俺を連れ戻そうと――!?)
改めて自分のやってしまったことの重大さを知ったリーズだったが、反省している暇は彼に与えられなかった。
「痛いのは一瞬だけだから、そこを動くなよ!」
ラウドはリーズに跳びかかると、黄土色に染まった右の拳を、リーズの
「そんなことを言われて素直に『はい、そうします』なんてできるか!」
リーズは慌てて後ろに下がり、ラウドから間合いを取る。
しかしラウドはすぐさま距離を詰め、今度は左の拳をリーズの顔面に向け――。
「――と見せかけてこれはフェイクだったり」
「――――っ!?」
眼前で突然止まり、にまりと笑ったラウドにリーズが目を見開いた瞬間。
突如リーズの腹から、岩のような材質の太い縄が出現した。
その岩状の縄は、リーズの腕と身体をガッチリと包み込み、固定する。
「これは! しまった、捕縛用の魔法か!」
リーズは何とか抜け出そうと身体を捩らせるが、全く動くことができない。
冷たい岩の感触が、リーズを包み込み続ける。
「しょっぱなでぶつけた小石が、捕縛魔法のマーキングだったというわけだ。やっぱりお前には手荒な真似はしたくないしな……」
「…………」
「さぁ、帰るぞ。さっさと謝ればきっと精霊王様も――」
「ラウド。お前には悪いけど、やはり俺はまだ帰るわけにはいかない」
先ほどよりも強い決意を瞳に宿し、リーズはラウドに否定の言葉をはっきりと告げる。
次の瞬間、リーズの全身を包むように、荒々しい風が集まり始めた。
「なっ!?」
「そっちが手段を問わずに俺を連れ戻そうとするなら、俺だって手段を問わない。既に法を犯してここまで来たんだ。絶対に姉貴を捜す」
低い声で静かに言うリーズの身体には、もはやラウドが近付くことすらままならないほどの風が吹き荒れていた。
「馬鹿かお前!? そんなことをしたら……!」
「馬鹿なのは、十分すぎるほど承知しているさ」
リーズが口の端に自嘲の笑みを浮かべたのは、ほんの一瞬だった。
「でも! 姉貴のことが何もわからないまま精霊界で過ごすのは、もう我慢できないんだよ!」
腹の底から咆哮するリーズに呼応するかのように、さらに強い風が二人の身体を叩きつける。
突然上空で吹き荒れ始めた尋常でない風に、街の人間が何人か気付き始めていた。
「そこまでやったら、他の精霊が気付いてこっちに来るぞ!?」
もはやリーズの耳には、ラウドのその言葉も届かない。
「風よ! 汝の鋭き力を、我の元に!」
力強く叫んだリーズに、風が応えた。
空を切り裂くのは、雷かと思うような轟音と、凄まじい威力の風。
「――ッ!」
吹き飛ばされまいと顔を両腕で覆い隠し、踏ん張るラウド。
しかし彼は次の瞬間、目を見開き戦慄した。
ガガガガガガッ!
硬い物を引っ掻く不快な音の根源は、リーズの身体からだった。
鎌
――リーズの身体もろとも。
「ぐぅぅうううううッ!」
無数の血を風で飛ばしながら、リーズは歯を強く食い縛り、獣のような唸り声を上げ風の刃に耐えていた。
「お前っ!? 本当に何を考えてるんだ! 死んだら元も子も――」
ガキィンッ!
捕縛用の岩が断ち切れる音が、ラウドの声に重なるようにして響く。
息を荒げながらも、リーズは己の血飛沫で汚れた顔に笑みを広げ、自由になった両手をラウドへと突き出した。
「悪いな、ラウド……」
リーズの周囲で吹き荒れていた風が、一点に集まり始める。リーズの両手に。
「――――!」
リーズが何をしようとしているのか察したラウドは慌てて構えを取るが、既に遅かった。
「風よ! 汝の猛々しさを突風に!」
ごぉぅんっ!
砲撃の如き爆音と共に、リーズの両手から暴風が放たれた。
容赦なく身体を叩きつける風にラウドは成す
そしてそれを放ったリーズも、姿勢を崩しながら後ろへと大きく吹き飛んだ。
(しまった。派手にやり過ぎた……。意識が――)
朦朧とする意識のまま、リーズは
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