第2話「その時魔物は」
なんてこった。
『痴漢やろう』『ひとでなし』『エロ魔導士』を経て、『おこさま魔導士』のぴーちゃんになった魔導士界のエリートが、ついにストーカーに成り果てた。
誘い出した裏路地で、胸ぐらを引っ掴んでぶん投げた時、その相手を確認したシズルは、その
最近、使い魔のザカリはテッセラと仲良くなり、シズルから離れる時間が増えた。シズルは自分の自由時間が増えたのでこれ幸いと、
ジークハルトは案の定、シズルがひとりで外出するのを渋ったので、あの手この手でアプローチする。
「なんでですか? 領民にもしてくれたのにまだ信用がないんですか? やっぱり私が魔物だからですかっ」
シズルがやや大袈裟に、わっと顔を覆うと、
「・・・! シズルそんなことはない!」
思わず舌打ちしそうになったのを、シズルはぐっと我慢した。
「お前はっ。魔物を
ギネカというのは、表向きは商会長だが実際は、この辺境の街の
やはり一癖ある領主さまは騙されてはくれなかったようで、あっさりとシズルの嘘泣きを見破ってしまった。ジークハルトは手強かった。
だが
まあ確かに少し
「酷い! 相変わらず酷い! そもそも
「お前の言ってることは相変わらずさっぱりだが、とにかく駄目だ」
「・・・言いつけてやる」
「何?」
「お姉さんに言いつけてやる。邸に
間違いではない。確かに外出を禁じられ、結構頻繁に拳骨や
シズルは
効果は抜群だった。
シスコンのジークハルトは敗北した。
シズルはそうやってジークハルトから
シズルがぶらついているこの街は、何もないのにやたら広い領地の中でも伯爵邸がある中心部ということもあって、辺境の割には賑わっている。
いろいろ差っ引かれた給金を持って、シズルはぶらぶらと街を散策していた。
が、街に出てから後頭部にチリチリと視線が刺さっているのを感じる。
だがそれは決して喧嘩を売られる前のような嫌な感じものではなく、しかし何やら悪寒のするようなものでもあり、シズルは今まで経験したことのない感覚を味わっていた。
最近はシズルのことを知っている街の人も多く、彼女が華奢な見かけとは裏腹に、ジークハルトの護衛官で領兵たちにも一目置かれるような存在であることを知っている人もいる。そんなシズルに絡んでくるような街の人は滅多におらず、特にギネカとの一件を知っているものとは、すぐさま
しかしこの感じはどこかで体験したようなそんな気がして、シズルは歩きながらずっとその感覚の正体を探っていた。
「あ! 思い出した」
ここに来た最初の幽閉塔で、今は同僚のシルベスタに
なるほど、そうつぶやいてシズルはどんどん
そうしてのこのこと裏路地に誘き出された、五段階変化でストーカーになったぴーちゃんこと、デュオをとっ捕まえてぶん投げたのだった。
シズルは因縁浅からぬ、目の前のこの
この男はただ、自由で自分勝手で我儘で、残酷な
しかしまさか本当に、自分よりも年下だとは夢にも思わなかったシズルだったが、そうと分かればなんてことはない。そもそも男というのは女より精神年齢が低いものが多いというし、デュオもどうやらその手の男のようだ。
彼も、
いい加減そうに見えて、意外と真面目な人間だったのかもしれないとシズルは考えた。
もういい、と言ったのにそれでもなお謝罪がしたくて、わざわざ城を出て自分の後をつけてくるとは。
それほどまでに罪悪感を抱えて思いつめていて、それが辛くて仕方なくシズルの機嫌をとっているのなら、その謝罪の気持ちをしっかりと受け止めてあげないと不憫だ。しかも奢ってくれるというのだ、それならありがたくその心意気を受け止めてあげようではないか。
それでデュオの罪悪感が薄れ、シズルの腹が満たされるのであれば、まさしく
いつまでも罪悪感のご機嫌取りで付きまとわれるのも面倒くさいし、これでチャラになるなら安いもんだ。
と手前勝手な理屈を捏ね回し、シズルは次の
だがしかし、デュオがいくら気前よく奢ってくれてもドレスの着用は断固拒否だ。
あんな、
そこは絶対に譲れない。
シズルは王城での夕餉の時の屈辱を思い出して渋い顔になった。
この異世界に来てからというもの、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます