ネイル

佐々木実桜

爪子ちゃん

料理も出来ないしお菓子も作れない、気にしてはいるが特別おしゃれなわけでもない。


特別女子力が高いわけではない私が、唯一女子らしさを自慢出来るのが『ネイル』だ。


どうせすぐに落とすのに学校が休みの日は毎回塗って、SNSに載せたりしている。


マットだったり、柄にしてみたり、凄く楽しいもので、自分だけじゃなく姉に頼まれれば姉のだって塗った。


学校の日も、校則違反として目をつけられない程度に爪を綺麗に見せるようにしている。


「あいつ、まじなんも出来ないのに爪ばっか研いて本当きもい。それでモテるわけでもないのに。」


少し、心無い言葉が耳を刺すこともあるけれど、それでも私は爪を綺麗にする。


(あんたみたいに男ウケばっか気にしてる女と一緒にすんな、ばーか)




その日も私は保湿オイルを塗っていて、そして家に帰ろうとしていたところだった。



同じクラスの、玉井翠たまいみどりが少し痛そうに自分の手を見ているところに遭遇したのだ。


私には友達がいないため、一人でご飯を食べているわけだがその時に聞こえてきた会話の中に、こんなものがあった。


『すい、また深爪?お前まじ癖治んねえのな』


『しょうがねえだろ、切っちまうんだよ』


『うわ、ささくれまで出来てんじゃん。爪子ちゃんにお手入れでもしてもらえば?』


『ばか聞こえるだろ』


『どうせ聞こえねえって』


聞こえるに決まってるだろ馬鹿が。


爪子は私の、いわゆる蔑称だ。


爪ばっかいじってる麻子だから爪子。


小学生みたいなネーミングセンス。


まあ、そんなふうに言っていたのだ。



(深爪に、ささくれか。)


ぼんやりと眺めていたら彼はささくれを弄りすぎたのかちょっと血を出していた。


(馬鹿だな。)



「ねぇ」


「ん?わ、爪子、じゃない、藤村。な、なに?」


爪子って言っちゃってるんだよ。


「今時間ある?」


「え、あ、うん、あります。」


なんで敬語?



私は玉井翠を椅子に座らせるとカバンから保湿オイルを取り出した。


「な、何すんの?」


「見てわかんない?塗るの」


「え、急すぎない?何事?」


「痛そうにしてるあんたの爪が可哀想だっただけ、黙って塗られてなさい」


「は、はい。」


そうして私は玉井の爪の保湿を始めた。


「な、なぁ」


「なに」


「爪子、じゃないや、藤村はなんでそんなに爪ばっか研いてるんだ?」


「楽しいから」


「爪みがくのが?」


「そうよ、悪い?」


「別に悪かないけど、」


「爪って、結構印象に関わるのよ。気を抜いていたら不潔に見えたりして印象が悪くなる」


「まぁ、汚かったらな」


「切りすぎているとせっかちなんだなって思うし、適当に伸ばしすぎてると自分の体に無関心なんだって思う。」


「うん。」


「それに爪って結構大事なのよ、物掴んだりする時、深爪してると少し不便でしょ。」


「そうだな。」


「そんな大事な部分なのに、なぜ気にしちゃいけないの?」


「…」


「あんたに言っても仕方ないけどね。はい、終わり」


私は玉井の手を離した。


「あ、ありがとう。」


「いいえ、あんたじゃなくてあんたの爪のためだから。また酷くなったら言って、誰もいない時に塗ってあげる。爪子なんかと一緒にいるの見られたくないでしょ」


私は少し笑って、そして帰路につくのであった。




「、藤村って、あんな風に笑うんだ。」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ネイル 佐々木実桜 @mioh_0123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ