蠢く殺人鬼の群れを泳ぐ
ささやか
この物語は全くの掌編なので第1話が最終話になるため正直タイトルなど意味ない
山崎君はきっと増えすぎた人口を抑制するために地球が何かやってるんだよとか言っていたが、そんな彼の頭蓋骨はパーティージョークのようにぐしゃぐしゃ砕かれてしまい、右目がやたら大きい個性的な顔面を拝見することは二度と叶わなくなってしまった結果、まあ私は持っていないけれど彼の写真や動画がきっとどこかにあだろうからそれを見れば再会することもできるのかもしれないけれど、生きて動く山崎
常識的なことをいちいち口にするのは、うわこいつ馬鹿らしいとか何今さらわかりきったこと言うのパイナップル野郎、まあ私は人間の雌なので
地球が云々という山崎君(故)の妄言は
一面の死体一面の死体一面の死体山盛りの死体山盛りの死体で実際殺人鬼が大量発生するようになってから地球の人口は確実にがっくり減っているので、山崎説はまあそうなのかもねと少しは思っているのだけれど、やっぱりそんなことはどうでもいいし、「あ」と言ってみると、「う」と江口さんが笑ったので、「『い』はどこにいったんだよ江口」と問うてみると、「どっかそこらへんじゃな?」と江口さんだよ私達は死体に囲まれながら喫茶店でカフェオーレなんつー洒落い飲みものをぐいっとやって女子力強化月間に備えているわけで、ここらへんで私達以外の生存者はいない。
大量発生した殺人鬼は男女間における差別的待遇を憂慮したのか知らんが、まず確実にしてないと思うが鶏頭だし、あいつらは基本的に男女平等に適当に気が済むまで世界万国万単位でぶっ殺して発生から二十四時間後に幻の如く消滅なわけだが、何故か年ごとに殺人傾向が異なっていて、たとえば新生児だけ殺さないとか同性愛者はセーフだとか意味不明な例外があり、たぶん今回は制服を着た十七歳の女子は殺さないというかその存在を認識しないだと思われるというのも、同い年の山崎君も一個上の高足先輩も私服女子の須藤さんその他諸々も全殺なのに後輩で昨日誕生日をむかえたばかり制服江口さんだけが同じく制服を着た私と一緒に生き残っているからだ簡単な推理だよワトソン君(故)。
「青木先輩ナポリタン食べます?」「食べたいけどあるの?」「材料あるので私つくりますよナポリタン、ナポリタンの申し子と言われた私のナポリタン食べてみたくないですか?」「ナポリに帰れ」「おっとそいつは言わない約束ですぜ」と江口さんが死体の踏みつけながら喫茶店のキッチンに消えていったというか、カフェオーレもそうだし勝手に喫茶店のアレコレを泥棒ってるわけだが、四年に一度しかしないので許してほしい、ってまあ殺されまくってるのでちょっとくらいやっても大丈夫だろうが経験則上。
トンテンカンとしばらくしてから江口さんがナポリタン二皿を持ってきたので、いただきますして、口に運んでみると確かに美味い、ナポリタンの申し子だとか頭がおかしいことを言うだけはある、人生で一番美味いナポリタンに相違ないので「ゲロうまですわ江口御大」と称賛すると、「でしょでしょ」「コツは」「地道な反復練習」「夢も希望ない」「それ、まるで人生みたいですね」と江口さんが言ったので夢も希望もなかった。
「でもほんとこれが食べられるなら二人でディストピア百合をやらかしても許せるレベルだよ」「いや、私百合とか無理なんで。BLならありですけど。どうしてもしたいなら青木先輩ちんこ生やしてきてください」「私がちんこ生やしたら百合にならないし、あんたにちんこが生えてなければBLにもならんからな」「確かにそうですね」と納得する江口さんが本当にこのナポリタンを作ったとは、あーあ、このナポリタンまじ美味しいんですけど山崎君にも食べればよかったのにな死んじゃったから食べられないけど。
美味しすぎるナポリタンを食べ終えて腹が満たされたので、思わず「私、山崎君のこと好きだったんだよね」と人生三大機密を漏らしてしまった、が、「だいたい察してました」と江口さんに動揺がなかったので、かえって私の方が「マジマジアルマジロー?」と動揺してしまった。
「まあわかりますよ青木先輩ひねくれてるから山崎先輩にだけやたらウザがらみしてましたもんね」「ウザが……」「ええウザがらみ。やっぱ好きだったんですね」「まあ、うん、そだよ。まあ、うん、死んじゃったけど」と私は山崎君の最期を思い返す、彼は殺人鬼から私をかばおうとして死んだ、結局それはまごうことなき犬死だったわけだけれど、それでも確かに私をかばって死んだんだ。
「あれは映画チックでしたね不謹慎ながらあえて言うと」「不謹慎ながらあえて言うと確かにあれは映画チックだった。それなら生き残ってくれればよかったのになあ」「ですね」とうなずく江口さんが「あ、青木先輩あれ」と喫茶店の外を指さすと、そこには
ぶっ刺した後、やべー矢部太郎やっちまったと若干の後悔と反省をしたのだが、殺人鬼は反撃する素振りを見せず、ええいままよとそのまま滅多刺ししてみると、なんとそのまま殺人鬼を殺せてしまった、まさか私の攻撃すら死ぬまで認識できないとは思わなかったと驚き呆然していると、江口さんがてこてこ駆け寄ってきて「大丈夫ですか?」「大丈夫、というか今なら私達認識すらされないからあいつら殺せるっぽいんですけど」「嘘みたいですけど今この両の
「ねえ」私は殺人鬼から包丁を引き抜きながら思いついたことをそのまま口にし「こいつら殺しに行こうよ」と提案すると、江口さんは「それ意味あるんですかね、どうせ一日経てばいなくなるやつですし次の数が減るとも思えませんし」とわりともっともな疑問を呈した。
「たぶん意味ないね。無意味」私は江口さんに答える。「でもさ、不条理に抗う。それが人生ってことじゃん。やろうよ」「やりましょうか」「やろう」
私達はうなずきあって殺人鬼を探しに駆けだした、あいつらをぶっ殺すため。
そうして蠢く殺人鬼の群れをなかを泳ぐ私達は、きっと二匹の金魚みたいだろうと私は思った。
蠢く殺人鬼の群れを泳ぐ ささやか @sasayaka
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