宝物リターンズ!! ~桜羽兄妹、戦慄の1週間!~

南木

戦慄の1日目! ―奪われし秘宝! 闇の組織「アンバサダー」現る!!

 とある地方都市の近郊の森に、石の狛犬が大量に立ち並び、非常に長い参道を持つ、由緒ある神社がある。

 その名も『桜羽神社さくらはじんじゃ』――――特殊な力を持つ家系が代々管理するこの神社は、特別な日を除いてあまり人が訪れることはない。


 そんな神社の境内では、顔の上半分を白い布で覆った巫女服姿の若い女性が、箒を使って参道をせっせと掃き清めていた。

 前などとても見えそうもないというのに、特に不自由はしてなさそうだ。

 彼女の名前は桜羽 郷子さくらは きょうこ。苗字の通り、この神社を管理している一族の一人で、この神社で巫女をしている。


「ふぅ……この長い参道を掃除するのも大変ですね。とはいえ、あと1週間後はご神体の御開帳……手を抜くわけにはいきませんね。あぁ、兄さまが手伝ってくれれば、もっと楽に…………いえ、むしろ余計に散らかるかもしれませんね。はぁ……まったく」


 そう言って郷子が深いため息をつくと、顔に掛っている白い布がわずかにふわりと浮かび上がり、やや艶やかな唇が垣間見えた。

 現在桜羽神社には郷子のほかにもう一人、兄の壱岐いつきが管理人……というか神主となっているのだが、普段から素行が悪い彼女の兄は、大体どこかで遊び歩いている。

 ――――すると、しばらくもしないうちにどこからともなく

 ブオンブオォンブボボボボブオオォン

 と、まるで怪獣の放屁のような爆音が轟き、参道を一台の大型バイクが猛スピードで突っ走ってきた。


 バイクは郷子の前で急ブレーキをかけて止まると、運転していた男性ライダーが無造作にヘルメットを脱ぎ捨てて一言


「おうキョン子!! オレオレ!! とりあえず500万円貸してくれないか?」

「とりあえず10回くらい切腹してください兄さん。あと私はキョン子じゃなくて郷子、です。キョンシーじゃないです」

「俺の『恥』パラメーターはまだ0だから、当分切腹なんてしないぜ?」


 突然バイクで現れた、このド厚かましい切れ目のイケメンは、桜羽 壱岐さくらは いつき。桜羽神社の不良神主である。


「とりあえず500万円の冗談は置いておいて、帰ってきたなら境内の掃除を手伝ってくれませんか」

「ああいやな、500万円ってのは冗談じゃねぇんだ」


 そう言って壱岐は、どこかばつが悪そうに頬をかじる。


「実はな……4年前の御開帳が終わった後、どーしてもまとまった金が必要だったから、ご神体を質屋に預けていてだな………」

「は?」

「あと4年使わないなら、それまでに倍に増やせばいいかなって思ってさ。いや、金はちゃんと倍の1000万にしたんだぜ。けどよ、受け取りに行く前にバイク屋でこのバイクが目に入ってさ~、どうしても買いたくなって…………ってキョン子?」


 壱岐が話を終える前に、郷子は神行法もかくやという速さで本堂に駆け入り、前日になったら開けようと思っていたご神体の入った箱を開く。


 箱の中は空っぽだった。


「な、言っただろ。あとで3倍にして返すから、500万貸しで――――」

「さあ兄さん。そのバイクを売りに行きましょうか」

「いやまて! 俺の占いによると、このバイクは今日のラッキーアイテムで……」

「いろいろ言いたいことはありますが、今日という今日は堪忍袋の緒が切れました。ですがまずはバイクを売りに行きましょう」

「はい」


 顔が見えないまま、冷たい声でどす黒いオーラを醸し出す郷子に、樹は平伏するほかなかった。


 だがそんな時!! 境内に一陣の風が吹き荒ぶ!


「クックック…………金を工面したところでもう遅い。桜羽の秘宝は、我々『アンバサダー』が貰い受けた」


 そして、兄を引きずっていこうとする郷子の前に、黒いシルクハットと黒いマントを羽織り、悪魔のような仮面をつけた男が、同じく黒ずくめのローブ姿の人間を大勢連れて現れた。

 バイクとともに引きずられそうになっていた壱岐は、思わずむくりと立ち上がり、さりげなく郷子を庇うように前に出る。


「なんだお前はっ! 名を名乗れっ!」

「いや、もうさっき名乗ったんだが。それはともかく、君たち二人のお目当ては…………これかねぇ?」


 そう言って謎の黒ずくめの男が懐から取り出したのは、金の縁取りがされたとても古い鏡――――まさしく、桜羽神社のご神体だった!


「そ、それは……っ!! さてはテメー、質屋を襲ってご神体を奪いやがったな!!」

「いや、1000万円出して買ったのだが」

「あんの質屋め! 預けた物を勝手に売りやがって! ただじゃおかねぇ!」

「兄さんの自業自得な気もしますが……せっかくここまで足を運んでくれて、しかも代わりに買い戻してくれるとは何て親切な方でしょう」

「誰が返すと言ったよ。なんなんだこの兄妹」


 男はやや呆れているようだが、わざとらしく咳払いすると、再びかっこつけたようなポーズをとる。


「まあいい、我々はあくまで紳士なのだよ。元の持ち主にお礼くらいはと思ってね。こうして遊び相手も用意したわけだ。クックック……では、二度と会うことはないかと思うが、ごきげんよう」

「あ、こら! まちやがれっ!! くそっ!!」


 謎の男は、ご神体である鏡をわきに抱えたまま、上空を通過していくヘリコプターに引き上げられるように、空へと飛び去った。

 その代わり、男の後ろにいた黒いローブを着た集団が一斉に呪文を唱えると、手の中に頭一つ分の火の玉を作り、二人に向かって一斉に放った。


「ちっ、やるしかねぇかっ!」


 壱岐はライダースーツの懐をまさぐってお札を三枚取り出し、目の前に無造作に投げる。札はその場で巨大化し、数十発に及ぶ火の玉をすべて防ぎ切った。


『!!??』


 無言でギョっとする黒いローブの集団。

 対する壱岐はライダースーツをその場に脱ぎ捨てて、神主が着る狩衣と烏帽子に身をつつみ、袂から大量のお札を手裏剣のように発射した。


 お札は回転しながら敵に襲い掛かり、容赦なく体のあちらこちらに突き刺さる。黒いローブの集団は、ローブの上に黒い西洋鎧を着た隊長格以外、緑色の血を吹き出して倒れた。


「まったく、兄さんはこういう時だけは頼りになりますね」


 郷子がそうつぶやいたその時――!

 屋根の上に潜んでいたのか、三体の黒ずくめの巨漢が彼女の背後にズシンと着地。重低音の雄叫びとともに襲い掛かってきた。


「あら、私のことが好きなのですか? ――――この顔を見ても、言えますかね?」


 そう言って郷子は、自分の顔を覆っていた白い布をゆっくり持ち上げた。

 布の下から現れたのは想像以上に美しい顔と、蛇のような縦長の金色瞳孔――――瞳に見つめられた三体の巨漢は、突然苦しみ咽返り…………灰色の煙とともに石の狛犬と化してしまった。


「またが増えてしまいました。そろそろ三列目が必要でしょうか」


 郷子は再び自分の顔に白い布を下ろし、狛犬が並ぶ参道の方に視線を戻した。

 どうやら兄の方も、そろそろ片が付きそうだ。


「おんやおや、随分と物騒なものをもってんのなお前。銃刀法違反で豚箱行にしてやろうか? いや、化け物に人権はいらねぇよなぁ!」


 最後に残った隊長格は、身の丈ほどもある紫色の大剣に黒いオーラを纏わせ、無言のまま壱岐に切りかかった。

 大剣が発する黒いオーラは人体に非常に有害で、少し吸い込むだけでも灰が焼けるように痛むのだが、壱岐は全く意に介すことなく斬撃を回避。同時に袂から放ったお札が剣に張り付き、黒いオーラを封じ込めた。

 剣にお札をべたべたに張られた隊長格は、なぜか急に苦しみ悶え、その場に倒れこんだ。


「ふん、この程度は尖兵に過ぎないってとこかね。悪いが、こいつは借りていくぜ」


 壱岐は、隊長格が苦しみもがいて手放した大剣を手に取り、的確に首の付け根を両断。敵は緑の血を吹き出し、その体を黒いすすの塊へと変えてしまった。


「郷子、こっちは片付いた」

「はい兄さん。狛犬が三体増えました」

「うむ。いろいろ言いたいことはあるかもしれんが、ひとまず置いといてくれ。あの変体悪魔仮面を追うぞ」

「ええ」


 こうして、3分もしないうちに敵を全滅させた桜羽兄妹。

 二人は「アンバサダー」と名乗った謎の男を追うべく、壱岐が買ってきたバイクに二人乗りで乗り込むと―――――狛犬がずらりと並ぶ長い参道を、フルスロットルで駆け抜けていった。



 4年に一度の御開帳の日まであと7日

 果たして壱岐と郷子は、無事ご神体を奪還できるのか!?




 このお話はここからが益々面白くなるのですが、丁度お時間となりました。

 続きはまた次回―――――


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宝物リターンズ!! ~桜羽兄妹、戦慄の1週間!~ 南木 @sanbousoutyou-ju88

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