第3話 かゆい

「うぅ〜〜」

 B子がうめき声をあげる。

 二人の少女が白で埋め尽くされた世界にやってきて、しばらく経つ。

 といってもここには時計もなく、太陽も月もないものだから時間の経過というのが全く分からない。

 そしてこの世界からどうにか脱出しようとしていたB子だったが、いくら調べても、全く何も分からずにいた。

 それもそうだ。何せこの世界は一面が白で出来た床に、見渡す限りの地平線が見えるだけ。

 試しにしばらく歩いて見たが、その先に壁が見えることがなかった。

「うぅ〜〜!」

 B子が困り果ててうめき声をあげている隣で、A子も似たように、どこか困ったようにうめき声をあげていた。

「どうしたのよ?」

 普段は脳天気な顔をしているA子が困った表情を浮かべていたので、B子はすぐさまA子に興味を示す。

「ちょっと……」

 なにやらA子はもぞもぞと体を動かしているようだ。

 確かにA子がこんなにも困った様子なのは珍しい。

 一体何があったのか?

 そう疑問に思いながら、A子を観察してみると、

「……背中がかゆくて」

 A子はもぞもぞと体を動かしながら、手を目一杯広げて背中まで伸ばしていた。

「…………そう」

 B子もそろそろA子に慣れてきたようで、何も思うことなくすぐに視線をそらした。

「ちょっとお願いだから変わりに掻いてくれない?」

 そう言ってA子はB子にお願いする。

 たかだか背中がかゆいくらいで、なんてB子は思いながらもA子のそばへと寄っていく。

 そんな所からもB子も優しさがにじみ出ています。

「それでどこよ……」

「う〜んと、真ん中よりちょっと右〜」

「ここ?」

「ちょっと下〜」

「じゃあここ?」

「いきすぎだよ〜。もうちょっと上だって」

「はぁ……。あなたって本当にめんどくさいわね」

「あっ、そこそこ〜」

 何もない空間。

 だけどそこには幸せそうな表情を浮かべるA子と、悪態をつきながらも背中をかいてあげるB子の姿があるのだった。

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