第21話 決戦
早く菜穂の元に行かなければ。
藍翠は走っていた。
計画の全貌を知ってしまった今、せめて彼女と來を助けたい。
藍翠は拳を握りしめ、太陽の位置を確認しつつ先を急ぐ。
時は遡ること3日前、藍翠は偶然宿で美佐樹たちから龍神計画を知ってしまったのだ。
ただ、美佐樹に3日後の予定について話し合おうと彼女の部屋に行ったとき、部屋の中から声がしたのだ。
「龍神計画は順調ね」
「ああ、薬のお陰で洗脳もしっかりできているようですね。あとは、例の子狼の情報どおりなら明後日には鱗が全てそろいます」
「そうなれば、鱗が5枚全て揃うわね」
「来ている番犬は恐らく一匹でしょう。今は北部の部族が攻めてきているからそちらに人員が割かれているはずですし、それに美佐樹殿を付けている彼でないと、この作戦を知らないでしょうし」
「菜穂の戦闘力を鑑みれば、彼を足止めするのは容易だしね。それに、彼女の心は洗脳で実のところ崩壊寸前。なら、それを壊すのは一瞬」
「処分するんですか?」
「だって、あの薬を準備するの大変だもの」
「では、來については?」
「適当に殺しておけば?だって、子供だよ」
「そうですね。それで、ずっと聞き耳を立てているのは誰ですかな?」
藍翠はここで二人にばれて、その後、捕らえられていたのだが何とか計画の実行日までに抜け出してきたのだ。
計画は今日の昼。
既に太陽は高く上っていて、林屋敷に着く頃には計画は完了しているかもしれない。
藍翠はいくら洗脳されているとはいえ、菜穂に助けられた恩は返したいと思っていた。
「間に合ってくれ......」
※
短刀が來の肩に深く入り込む。
菜穂はすぐさま來を抱きよせ、相手を蹴とばす。
札により強化されたその攻撃は躱せず、番犬は腹部を蹴られよろめいた隙に距離をとった。
來は見た目のように緑の肌をしているだけで、5歳ほどの人間の男のこと大差はない。
その為、いくら急所を外しているとはいえ短刀一本でも命に関わるかもしれない。
「來、來!」
「......っ......ご主人様......早く戦いに......」
來にそう言われ、菜穂はすぐさま敵に目を向ける。
相手はもう3歩のところまで距離を詰めていたので、菜穂は來を抱きかかえたまま向かい合い、素手の攻撃を躱していく。
このままずっとこうして來を抱きかかえていてはジリ貧だ。
集中が切れれば二人ともやられるだろうし、來の手当てを早くしなくてはならない。
(どうすれば......)
その時、塀の向こう側から聞きなれない男性の声が聞こえた。
「何者だ!おい......ぐぁあああああ!!!」
その瞬間、塀の向こうから見慣れた黒い布がちらつく。
「菜穂!!」
「藍翠!!」
藍翠は塀を飛び越えるなり、すぐに菜穂の隣に飛び移る。
「仲間なのか?」
番犬は突然動きを止めた。
「仲間、ええ、友人ですよ」
「そうかそうか、それは良かったな。しかし、所詮は子供。二人係りでもどうだろうか」
「菜穂......」
「藍翠、來をよろしく!來を安全な所に!!」
「菜穂も......」
「時間は無いですよ。來を助けてください!」
「......菜穂、無事を祈る」
菜穂は藍翠に來を託し、刀を構える。
藍翠は番犬が真剣を抜くのを見るなり、状況を察したようですぐにここから離れようとする。
「逃がすか!!」
番犬は菜穂に向くかと思いきや、すぐに藍翠の元に詰め寄り刀を横に振る。
同時に藍翠も來を庇いつつ短刀を抜き放つままに振り上げる。
甲高い音が響くと同時に、刀は風圧で藍翠のフードを飛ばし、短刀は番犬の顔の布を切り裂く。
「......黒狼......」
「......」
藍翠の顔を見るなり、番犬は一瞬驚き動きを止めた。
その隙をついて藍翠は來を抱きかかえ、塀の向こう側に行ったのであった。
「凛抄は生きていたのか......」
「こっちを忘れては困りますのですよ!」
菜穂はすかさず番犬に向かって刀を振り下ろすも防がれる。
「これで邪魔者はいなくなりました。思う存分、戦えますね」
「......いや、そうではない」
番犬はそう言うなり菜穂を押し返し、後ろに飛んで距離をとる。
その瞬間、林屋敷から爆発音がし、燃え出した。
「計画は達成されてしまった。君ももうここを守るために戦う必要は無いのではないだろうか」
「......え......?」
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