第20話 その時

 3日後、遂にその日が来た。


「作戦を確認しましょう」

「ええ、そうね。まずは、最初に五氏族会議会場の林家の正面玄関から中に入るわ。その時、哲は門の前に、菜穂は中庭で待機よ。そして、私と総龍で中に入り儀式の準備をするわ」

「藍翠さんはどうするのですか?」

「菜穂ちゃんは聞いてないっけ?まあ、あの後ここ賢陽に来てから会ってなかったから仕方ないか。藍翠とは別行動よ。そもそも、互いに同じ目的地だっただけだからね」

「そうですか。では、続けてください」

「ええ、それで、菜穂ちゃんと哲にはここで番犬を食い止めて欲しいわ。せめて30分はお願いね」

「わかりました」


 菜穂はそう言って、持ち場に着く。

 林家は質素な平屋の豪邸で、中庭には綺麗な日本庭園が広がっている。


「テツ、門の前を任せたのです」

「ああ。菜穂も、中庭で頑張れな」

「それじゃあ、私と総龍で言ってくるわ」

「幸運を祈ります」


 菜穂は二人が林家に入るのを見届け、中庭に立って待つ。


「來、遂に龍神を召喚できるですね」

「ご主人様の願いが叶うなら、おらはうれしいぞ。だけど、いくら美佐樹殿のご友人とはいえ、初対面で共に行動をするのは......」

「何言ってるの、話した通りテツは私の幼馴染だし、美佐樹さんですよ、大丈夫ですって」

「だから心配なのだが......」


 菜穂はそっと來を抱き上げる。


「それに、私の実力、知ってるでしょ」

「じゃがな......」

「いざという時は、來のこと守るから」


 菜穂は來を抱きしめていると、ふと塀から白い服を纏った大柄の人物が降り立った。

 顔は布で隠されていて見えないが、驚くことに、その人は銀色の髪に、耳が生えており、おまけに尾もついていた。


「汝、何者か」

「私は菜穂です。貴方こそ、何者ですか?」

「我は銀狼族の者、国の使者である」

「菜穂」


 來に呼ばれ、そっと菜穂は來に耳を傾ける。


「そこにいるのが番犬じゃ。しかし、彼らはとても強いという。だから......」

「そうね、私はアレを止めればいいのね」

「ご主人様、やはり......」

「來は近くで隠れていて。体が緑だし、保護色になってうまく隠れられられますよ」


 菜穂はそっと來をその場に下ろし、番犬に歩み寄る。


「貴方はここにどのような用があるのですか?」

「それは言えぬことなり」

「そうですか。ですが、この先貴方に行かれると困るのですよ」

「それはいかなる訳か」

「こちらも話せないことなのですよ」

「成程、そこを通しては貰えぬか。我はあまり流血を好まぬ。どうか、ここでお引き取り願おう」


 番犬はそう言ってそっと菜穂に歩み寄る。


「それは無理な相談なのですよ」


 菜穂はそう言った次の瞬間、剣を抜き放ちその勢いのまま番犬を斬りつける。

 しかし、すぐに躱せられ番犬は塀の上に飛び乗った。


「話す余地は......」

「ないのですよ!」


 菜穂はすぐさま飛び上がり斬りつけようとするも、番犬は可憐な宙返りでそれを避ける。

 そして、向こうも短剣を抜き放ち、構えるなり間を詰めてくる。

 激しい剣戟が飛び交う。

 火花が明るく舞い、金属が合わさる音が絶えず響き渡る。

 しかし、見た所、菜穂の方が押されているようで、いくつかの攻撃を躱しきれず、服が避けている。

 次の瞬間、鋭い突きが菜穂の心臓に向かって伸びて来た。

 それは躱しきれないほどの速さで迫ってくる。


「ご主人様!!」


 気が付くと、菜穂の目の前には來がいて、菜穂の額に札を貼る代わりに短刀が彼の肩に突き刺さっていた。

 その瞬間、世界が変わった。

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