第17話 哲
泰京と賢陽の丁度真ん中にある街、緑苔峠。
この街は川沿いに位置しており、二つの崖に挟まれている地形が特徴的である。
基本的には水運で栄えているが、二大都市の中心に位置しているため、旅人の往来が多く、かつ崖の壁面に広がる街並みの絶景さから観光都市としても栄えていた。
そんな緑苔峠を二人の男が訪れていた。
背が高く筋肉質な成人男性の名は哲といい、細身でまだ顔に幼さが残る青年の名は総龍と言った。
「哲、なぜこのような街に寄るのだ?我は賢陽の林家に用があるのだぞ」
「総龍様、先ほど私の知人から届いた手紙によると、今日あたりに私の古なじみがここに来るとの話があったものですから」
「古なじみ?なぜ、その者はわざわざこんなところに」
「私も誰かはわからないので、なんとも言えないのですが、その知人の情報は侮れないので」
「そうか。まあ、猶予は一日だけだぞ、いいな」
「御意」
※
「ここが緑苔峠ですか」
「名前の通り、緑苔で峠の至る所が覆われておるのじゃな」
「そうだな。今日はもう日が暮れるし、今日は適当な宿で休もう」
菜穂たちは緑苔峠にある宿、”杉苔亭”でその夜を過ごすことにした。
そこは2階建ての小さな宿屋ではあるが、夕飯、温泉も使え安い値段で泊まることができた。
部屋もそれなりで、なぜ安いのかと言うと何でも妖怪が出るとのことであったが、菜穂たちにとってはそんなことはどうでも良く、すぐさまその宿を借りたのである。
部屋は一人用の為、三部屋借り、菜穂と來、美佐樹、藍翠で三人別々で寝ることになった。
「ご主人様、こんな高級そうな宿を格安で借りられるとはよかったな」
「そうですね。妖怪が出るとかなんとか言ってましたけど、妖怪ってあの時の蜘蛛のような奴でしょうか?」
「そうじゃな。しかし、あの蜘蛛程のは中々出現せんだろうし、大丈夫じゃろ。それよりも、ご主人様、明日は早くに出発するじゃろうから、風呂にでも入ってきたらどうじゃ?」
「そうですね」
菜穂は旅館から貰った着物に袖を通し、万が一に備え短剣を帯の中に隠し持って、浴場に向かった。
その途中、廊下で菜穂は美佐樹とばったりと出会う。
「美佐樹さんもお風呂に向かっているのですか?」
「いや、違うよ。丁度、菜穂ちゃんに会いに行こうとしてたんだ」
「私にですか?」
「そうだよ、今から時間良いかな?」
「はい、いいですけど、外に出るなら服を整えてから......」
「既に私の部屋でその人を待たせてるから、ほら、おいで」
美佐樹はそう言うと、菜穂の腕を掴みぐいぐいと引っ張っていく。
そしてそのまま美佐樹の部屋に菜穂を入れた。
すると、そこには畳の上で畏まっている男性が一人と、縁側に腰掛けている青年が一人いた。
彼らは高級そうな着物に身を包み、男性は帯刀していた。
「こちらは?」
「王子様とその家来だよ。哲さん、連れて来たよ」
美佐樹に哲と呼ばれ、男性は立ち上がり振り返って菜穂に向き直る。
哲は菜穂の顔を見るなり何かを驚いたようで、そっと駆け寄りその手を取った。
「ナホ......あの時のままだ......」
「......?あの、どこかで......」
「覚えていないのか?ほら、ショウと三人でよく遊んだテツだよ。3丁目の公園でよく鬼ごっこして、ショウがとても足が速かったからいつも僕は負けっぱなしだったけど、ナホはショウに捕まったら殴り飛ばして喧嘩になったことが何回あったっけ」
「テツ?まさか、テツは私が生きていた時はまだ死んでなかったはずです......時空のゆがみでしょうか?それとも、私が長時間眠っていたのですか?」
「一回そこで座ってから話をしましょう」
哲は菜穂の手を離し、縁側に座る青年に一声かけてから、部屋にあるちゃぶ台に座った。
菜穂は美佐樹に背を押され、席に着く。
「では、どこから話しましょうか」
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