第15話 旅立ち
菜穂たちが美佐樹の家にお世話になってからかれこれ一週間が経過し、季節は秋から冬に変わろうとしていた。
菜穂と來はそこまで警備隊の人達に目を付けられていなかったため、度々美佐樹の手伝いをして毎日を過ごしていた。
追手もどうやら藍翠にしか興味が無い様で、菜穂が泰京の街を出歩いていても家や街で襲ってくることはなかった。
「藍翠さん、目覚めないですね」
「そうだね。傷は大体は治っているから直に目覚めるだろうけど」
それからというもの、菜穂と美佐樹は來を交えて藍翠が目覚めるのを待ちつつ、元居た世界の話をしていたところ、元居た世界が同じらしいと発覚し、二人はますます仲良くなっていた。
その為、今では共に旅立てるのが楽しみで仕方なくなっており、意味もなく旅支度をしてそれを解いてをしたり、意味もなく次の街への行き方を何度も話し合ったりしていた。
「ご主人様、美佐樹殿、出発はいつなのじゃ?このままじゃと、隣町に着く頃には冬になっておるのではないか?」
「確かにそうなんだけど、藍翠が目覚めてないし、旅に藍翠を連れていくわけにはいかないからね。なんせ本人の許可を得てないから」
「どうしてこの龍神様の鱗を持ちだしたかとかも知りたいですし、早く目覚めてくれませんかね」
「水でもかければ目覚めるかな?」
「流石にこの時期に水をかけるのはやめといた方がいいと思いますよ」
「でも、一向に目覚める気配ないんだよね。早く目覚めて欲しいのに......そうだ、ああれなら目覚めるかも」
何を思いついたのか、唐突に美佐樹は鞄の中から何か、ではなく複数個が連なっている爆竹を取り出した。
そして、何を血迷ったのか、屋内でそれに火をつけたのだ。
瞬く間にぱちぱちというはじける音と共に部屋の中が煙に包まれた。
煙の中を手探りで探し、なんとか菜穂は部屋の窓を開け放ち、來は玄関の扉を開けた。
「ちょっと、美佐樹さん!!」
「いきなり何なのじゃ。これでは火事騒ぎになるぞ」
煙は外に流れていって、視界がどんどんはっきりとしていく。
菜穂はさっきの件の被害はどの程度かと振り返ると、そこには黒い外套を羽織った謎の人物が、いつの間にか美佐樹の首筋に短刀を当てていた。
顔は外套についている頭巾、つまりフードで隠れて見えない。
菜穂は慌てて携帯している短刀に手をかけるも、美佐樹はそこまで慌てておらず、苦笑いしながら短刀を仕舞えと合図する。
「菜穂ちゃん、考えてみなよ。ここの部屋は密室だったんだよ。なら、この人物は誰かわかるよね」
「確かに、そうですけど、油断ならぬ状況ですよ」
「いや、大丈夫。この子はそんな見境なく人を殺すなんて子じゃないし。ね、藍翠」
「......」
謎の人物こと藍翠はすぐさま美佐樹から離れ、短刀を鞘に納めた。
「やっぱり、これじゃないと起きないよね。よし、藍翠が起きたことだし、出発しよう!」
「え!?」
「待つのじゃ、まだ準備は何もって、もうしておる。まさか、美佐樹殿は全て計画した上での行動じゃったのか......!」
菜穂と來が驚く姿を他所に、美佐樹は壁の端に佇む藍翠の元に向かい話しかける。
「藍翠、鱗を集める旅に行くんだけど、一緒に来るよね?」
「......行かない選択肢がどこにある。全て計画の内にやっているのかと思うと、馬鹿なのか、阿保なのか、見当もつかないな」
「そういうそっちだって......」
「この話はまたあとでだ。それよりも、この騒ぎを聞きつけて警備隊が来るのも時間の問題だ。私はすぐにここを出ていく。もし、お前達が私を連れていきたいなら、40秒で支度するんだな」
「大丈夫、準備はできてるよ。じゃあ、出発!」
美佐樹は一人そう言って部屋を出ていこうとするのを、慌てて菜穂は引き留める。
「ちょっと、待ってくださいって!いきなりすぎて、思考が追い付いてないのですけど!」
「え?」
「いやいや、当たり前でしょという顔をされても困りますって」
「美佐樹、菜穂、じゃれ合っている暇はないぞ。早くこの街から離れるべきだ」
そうこうしてる間に、外では騒ぎが起こっているようで、警備隊たちを呼ぶ声が上がっている。
菜穂はもうどうにでもなれと思い、なぜか笑顔の美佐樹に半ば強引に連れていかれる形で泰京を脱出したのであった。
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