第14話 来訪者

「お、目が覚めた?」


 菜穂は床に敷かれた布団で目を覚ました。

 特に痛むところはなく、すんなりと起き上がり辺りを見渡し自分がどこにいるのかを確認する。


「ご主人様、おはようございますじゃ」


 來と女性が部屋の端にあるちゃぶ台でのんびり味噌汁を啜っていた。


「いやー、藍翠の治療が終わったと思ったら今度は菜穂ちゃんがそこで倒れてて驚いたよ。大方の事はここの緑の子から聞いたけど、召喚獣をないがしろにしちゃいけないよ」


 來がどのような説明をしたのかわからないが、二人はごもっともだと言った顔で頷き合っている。


「まあ、警戒しないでこっちおいでよ。まあ、警戒しても自分で今更って思ってるのかな?」

「いえ、最初に会った時点で危険人物で無いと認識しているので警戒はしていないですよ。ただ、こうしてお世話になってしまって申し訳なくて......」

「まあまあ、藍翠が信用する奴なら問題ないし、それに同郷の好だ。気にしないでくれ。それにしても、まさか私以外にこの世界に来ていた人がいたとは」


 菜穂は布団をたたみ、それから机の前に座った。

 既に菜穂の分の朝食が準備されており、來が早く食べるよう促す。


「いただきます」

「おいしい?」

「はい......」


 朝食は雑穀ご飯に大根の葉の味噌汁のみであったが、腹が減っていたこともあってとても甘く美味しく感じた。

 菜穂は一通り食べ終わった後、箸を置き現状を確認する。


「ところで、私はどれくらい寝ていたのですか?」

「3日、と言うとこかな。まあ、追手は来てないから安心してね。あと、怪我はもう完治してるよ。さっすが、改造人間だね」

「そうなのですか」

「ちなみに、私は美佐樹だよ、よろしくね」

「は、はい......」


 菜穂は美佐樹はとても口が達者な人だと認識しつつ、來に食器を片付けてもらう。どうやら、この家に来てからも來は家事をしているようで、心なしか眠る前より部屋が綺麗になっている気がした。

 片付けが終わり、三人はまたちゃぶ台を囲む。


「それで、來くんと菜穂ちゃんはこれからどうするの?」

「とりあえず帰ろうと思っていたのですが......」

「その後は?」

「特に決まってはいないのですが、鱗を探しに行きたいです。前世の約束があるので......」

「菜の花が咲く頃にまた会うっていう約束ね。いいなー、ロマンティックじゃん!私なんて師匠のわがままで勝手に召喚された身だからさ」

「ろまんてっく?どういう意味じゃ?」

「甘美で理想的なさまってとこですかね。まあ、それはさておき、美佐樹さんは何か言いたいことがあるのですか?」

「そうなんだよ。今、私を守ってくれる人を募集しててね。月給はまあ、そん時考えるけど、寝食の保証するし、それで菜穂ちゃんに頼もうと思って」

「私ですか?」

「そうだよ」


 美佐樹が話すには、美佐樹は旅に出ようと考えており、その為に傭兵を雇いたいそうだ。

 それで、傭兵組合のある蒼渓の街に行こうと考えていたところ、こうして怪我人が来てしまって身動きが取れない。さて、藍翠の怪我が治ってから行くのは面倒だ、どうしようか。

 と三日間の間熟考した結果、藍翠が信用してたなら信用できるだろうし、改造人間なら強いのではという考えの元、菜穂を自分の護衛として雇おうと決心したそうだ。

 既に來の許可は得ているそう。


「旅の目的は、龍神様の鱗を集めること。そして、龍神様から体液を貰うこと。これで、異界の門を作る薬ができるから、医者であると同時に呪術師である身として是非ともその霊薬を作りたいと思ったのです。そしてあわよくば元の世界に帰ると。菜穂ちゃんの目的とも一致してるし、悪くはない話でしょ?」

「まあ、確かにそうですけど。本当に私でいいのですか?出会ったばかりですよ」

「藍翠が問題ないって判断したなら問題ない!」

「美佐樹殿と藍翠殿はどのような関係なのじゃ......?」

「ということで、お願いします!お金だします!」


 美佐樹は12歳ほどの見た目の菜穂に傭兵を頼むくらいの人間だし、出会ってから日が浅いこともあり、彼女は本当にお人よしなのか、なにか策略があるのか判断しかねる。

 しかし、今の所追われている身として、下手にここから動かない方がいいだろうし、折角鱗を手に入れたならこれを利用しない選択肢は無いと菜穂は考えていた。


「わかりました、良いでしょう。美佐樹さんの護衛をしましょう」

「じゃあ、藍翠の怪我が治り次第出発ってことで、それまでは気楽に我が家ででも自分の家ででも暮らしてていいよ」


 美佐樹は心の底から喜んでいるようで、何やら今日は御馳走にしようかなどと來と話ている。

 菜穂はこの後、どんな旅が待っているのだろうかなどと考えつつ、のんびりと朝日を感じながら二人を眺めるのであった。

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