第12話 蜘蛛退治


「いつでもどこでもすぐに、おらはご主人様の元に駆けつけるぞ。よくぞご無事で、ご主人様......!」


 煙の中から現れた來はそう言うなりすぐさま菜穂に飛びつく。


「ご主人様、ご主人様......!」


 菜穂も安心して來を抱きしめる。


「來、よく来てくれました。それで、早速のお願いなのですけど、そこにいる蜘蛛を退治してくれませんか?」

「蜘蛛?そんなの、ご主人様なら一捻りじゃろうに」

「蜘蛛と言えども、妖怪ですよ。その扉の奥にいるらしいので。私はそこからじゃないとここを抜け出せないのです」

「それは問題じゃな」

「そう言う訳で、來なら召喚獣だし倒せるかなって」

「そうじゃの、無理な相談じゃな。おら、戦闘能力ないし」

「え......」


 來はそう言って胸に手を当て、自慢げに話す。


「おらは今まで戦ったことなどない!」

「えー......」

「しかし、おらにはご主人様の力を引き出す力がある!」

「えっ!」

「取り合えず、ここから下ろしてくれないかご主人様」

「うん」


 菜穂は來をその場に下ろし、來の前に立つ。すると、來は何やら札を取り出した。


「この札は、ご主人様の制限を解除する暗示が掛かっておる。故に、ご主人様はこの札を握るだけで制限が解除され、真の力が発揮されるのじゃ」

「それならすぐに!」

「しかし、制限を解除すれば、肉体に過負荷が掛かる。だから時間が経ったら、おらが再び札をご主人様の額に貼って制限をかけるぞ」

「時間ってどれくらいですか?」

「1時間じゃ。それくらいあればその暗闇にいる蜘蛛とやらも倒せよう。制限を解除すれば命素も見えることじゃろうし。ではご主人様、この札をどうぞ」


 來はそう言って紅い漆塗りの木札を菜穂に差し出す。

 菜穂はそれを受け取り握りしめた。

 その瞬間、世界が変わった。


「見える、見える......!」


 薄暗い世界が、明るくなった。今なら扉の向こうさえはっきり見えた。

 扉の向こうは、円筒状の部屋になっており、扉から底に向かって階段が続いていて、その先に大きな蜘蛛がいた。

 天井には無数の蜘蛛の巣があり、そこには新しいものから白骨化したものまで様々な死体がぶら下がっていた。

 菜穂は扉から部屋に飛び込む。

 体が、鳥のように軽かった。まるで、機械の時のように。


「藍翠さん、今助けに行きます!」


 菜穂はやおら降り立ち、藍翠の姿を探す。

 見渡すと、壁際に倒れているその姿が見えた。しかし、肩が上下していることから、まだ意識はあるのだろうが、出血が酷く、このまま放置しておけば死んでしまうだろう。

 しかし、目の前には敵、手当てするより先に倒さねばなるまい。

 菜穂は短刀を抜き放ち構えると同時に、蜘蛛の鋭い足が上から振り下ろされた。

 菜穂はそれを流れるようによけ、二本目の足を短刀で受け流し、間合いを詰めていく。

 そして三本目の足が来た時、菜穂は蜘蛛の胴体に触れられる位置にいた。

 蜘蛛の足をはじき返し、短刀を横っ腹に突き刺す。そしてそのまま上に飛び切り上げる。

 今度は怪我で怯む蜘蛛の隙をついて頭に降り立つなり、短刀でその8つの目を全て潰し、頭に短刀を突き刺す。

 蜘蛛の8本の腕が一斉に菜穂に向かってきたが、彼女は可憐に宙返りをしながらその場を離れそれを回避する。

 蜘蛛は目を潰され、菜穂たちの位置を把握できなくなり、がむしゃらに腕を振る。しかし、部屋の端にいる菜穂の元には届かない。


「すいません、少し漁らせてもらいます」


 菜穂は藍翠の元に駆け寄るなり、握っていた太刀を拝借する。

 そして、それを持ち、そのまま一歩で蜘蛛の頭まで間合いを詰めた。


「これで、終わりですっ!」


 菜穂はその太刀で蜘蛛の頭に刺した短刀を押し込みながら頭を一刀両断にする。

 あまりにも一瞬の出来事であったため、蜘蛛は対応する間もなく痙攣しこと切れたのであった。

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