第11話 脱獄
葉の効能のお陰で菜穂は動けるまでになっていた。
「この葉の効果は半日。言って置くが、あくまでも痛覚遮断だから怪我が治ったわけではないから用心してくれ。あと、これは依存性があるからあまり使わない方がいい」
「やっぱりそれって使っちゃいけない物じゃないですか......」
「そうだ、こういう事態や怪我の治療とかでは使わない。これ以上喋っている時間はない、急いでいくぞ」
「そうですね」
菜穂は自分の荷物は全て來に任せているので持っていくものは無かったが、この先戦うこともあるかもしれないと、とりあえず誰かから短刀を失敬し、藍翠と共にん部屋を出た。
「この先は菜穂の目では何も見えない。私の手を繋げ」
「はい......」
菜穂は藍翠に手を引かれるままに道を行く。
階段に差し掛かり、藍翠は下へと降りていくのを菜穂は不思議に感じた。
脱出をするのにどうして下へ行くのか、逆に追手に道を塞がれるのではないかと。そもそも、藍翠はどうやって道を判別しているのかと。
「藍翠さん、どうやって道を見分けているのですか?」
「
「メイソ?」
「命の素と書くように、全ての命の源だ。私の一族はこの命素を感じ取ることに長けている」
「なるほどですね。どおりで道がわかるのですね。命素、私にもわかるようになりませんかね」
「話によると、呪術師は秘薬を目に塗ることで、この命素が見えるようになるそうだ。それよりも今は時間がない、急ぐぞ」
「そうですね」
正直、菜穂は藍翠を完全に信じてはいなかったが、この現状からして頼れるのは彼女だけであった為、こうして会話を入れていた。
今のところは、ある程度の信用はできそうだと思いつつ、彼女の後をついて行く。
光が一寸も入らない真っ暗闇の世界をひたすら歩き続ける二人。
菜穂は藍翠にはこの暗闇がどのように見えているのだろうかと疑問を持ち、自分にも命素が見えないか、目を凝らしてみる。
しかし、暗闇はどこまでも暗闇で、結局何も見えはしなかった。
小一時間程歩いたところで、再び明かりが見えてきた。
今いる道はまっすぐ明かりに続いていたが、床は埃を被っていて、今まであまり人が通らなかったことが伺える。
「ここをまっすぐ行ったところに扉がある。その先に、昔の坑道が外まで続いている。そこから外に出よう」
「わかりました」
明かりまで歩くと、そこには古びた鉄扉があり、押すだけで簡単に崩れ落ちた。
しかし、すぐさま扉の奥で何か蠢く。
「蜘蛛の妖怪か」
「妖怪、と言いますと人知の超えた事象を起こす民間伝承に元図かれた非科学的な存在のことですか?」
「そうじゃない、妖怪というのは生命体の一つで、一般に化物の事を指すんだ。この扉の奥にはだいたい1丈の蜘蛛がいる」
「1丈?」
「菜穂は何も知らないのか。1丈はおおよそ人間2人分くらいの長さの事を指す」
「つまり、約3メートルですか。大きいですね」
菜穂と話しつつも藍翠は扉のあった壁に耳を当てて内部を探っていた。
おもむろに藍翠は懐から巾着袋を取り出す。
「万が一のことがあったら、この袋を持って走って元来た道を戻れ。そして追いかけてくる連中にこの袋を渡すんだ。いいか?」
「これは?」
「龍神の鱗。これを運ぶときに、お前に迷惑をかけてしまった。すまないな、私のできる償いは、これぐらいしかできない。もし、私が”戻れ”と叫んだら、来た道を戻るんだ。いいな?」
「わかりました」
「それでは」
藍翠は風のように走り去り、扉の向こうの闇の中に消えていった。
暗闇が見えない菜穂には中で何が起こっているのか全く見当もつかないが、途中途中でがしゃりと何か金属がこすり合わされる音や、壁が崩れる音がし、激しい戦いが行われていると思われる。
5分ほど経っただろうか、突如音が消えた。
菜穂は心配になり、そっと扉を覗くも何も見えない。
10、20、30と数えても、音は戻らない。
まさかと思い、菜穂は近くを照らす松明を手に取り、扉の向こうを照らそうとした。
その時、不意に泰京で感じた違和感が頭をよぎる。あの時に感じたように、まだ本調子でない処か、肉体が損傷している中で、蜘蛛に見つかり、攻撃対象にされたなら、一溜まりも無いだろう。
しかし、このままであ藍翠の無事を確認できないどころか、藍翠が殺されてしまう可能性もある。いや、既に殺されている可能性もある。
どうすればよいだろうか、菜穂は思考を巡らす。
そう言えば、今、來がいない。來は召喚獣と言うし、もしかしたら戦闘能力が高いのかもしれない。
菜穂は蒼渓で來がいつでも召喚できると話していたことを思い出した。
(確か、火の鳥は私の記憶の中に召喚獣の召喚方法があるといっていました。それなら、思い出せるはずです......!)
菜穂は目を閉じ、記憶に意識を向け、脳の中でカテゴライズされた情報の中から、召喚方法について検索をかける。
人間の脳味噌である為、情報が少ないし、検索に時間がかかるが、この方法に慣れている菜穂にはそれは些細なことでしかない。
召喚方法に関する情報は、脳内でバラバラになっていた。その為、今まで容易に思い出せなかったが、こうして集中状態になれば組み上げることは容易である。
(これで、思い出せました。命素を媒介にしてテレポーテーションを行うイメージですね。ランデブーポイントは召喚術式という形で設定し、私は來に呼びかければ、後は彼が勝手にやってくると)
菜穂は記憶を頼りに召喚術式を描き出し、機械の時に通信を行うように命素に接続し、來にプロトコルを送る。
すると、すぐに來から応答があり、召喚術式が発動しそこから白煙があふれ出した。
そして、煙の中から懐かしいあの声が聞こえて来たのであった。
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