第8話 龍神様の話
「――昔、昔、総の国があった時よりもさらに昔、そう、今から200年前の話だよ。
幾千もの国がありまして、幾つもの戦争が起こりました。
そうして5つの国、仁、義、礼、智、信がありました。
仁の国の王様は人々への思いやりを大切に、義の国の王様は絶対の正義を大切に、礼の国の王様は法律を大切に、智の国の王様は学問を大切に、信の国の王様は信じる心を大切にしていたの。
だけど、それはうまくいかない、可笑しいことに、国は傾く。
仁の国では文化が停滞、義の国では反乱発生、礼の国では悪事が横行、智の国では貧しくなって、信の国では裏切りが。
そんな人の世を見かねた龍神様がある日、王様たちに告げるのです。
愚かなる者たちよ、そなたらに足りぬのは協力することだ。5人で力を合わせれば、その時新たな道が開かれん。
龍神様は王様に一振りの剣を授け、王様たちは剣に協力することを誓います。
そうしてできたが総の国、5つを総じて総の国。
総の国の5人の王様、仁、義、礼、智、信を持って国を治めます。
だけど、万物は流転する。
龍神様は王様たちに鱗を授けます。
何時か国滅び、戦乱の世が再び訪れし時、5つの鱗を持って果てにありし、仙霊山に向かうのだ。我は再び現れて、汝らの願いを叶えん、と。
そうして200年もの歳月がたった今、龍神様の言う通り、総の国は滅んで、戦乱の世の中になっちゃった。
日々を生きるのにも大変さ。そんな時に現れるのは、希望を持った新たな王様。
龍神様より授かりし、剣を腰に携えて、5つの鱗を持ってみんなの願いを叶える物、それが新たな王様さ。
さあさ、話はここらで終わり、ここからは君が創る物語、新たなページは今日からさ」
旅芸人の一行の劇はここで終わった。
「龍神様と総の国にはそんな話があったのじゃな。驚きじゃ」
「そうですね。でも、本当かどうかわからないですけど。それにしても、5人の王様の演技は迫真でしたね」
「そうじゃな。おらは、龍神様の仕掛けが印象深かったぞ」
「じゃあ、広間から帰る人の波に巻き込まれる前に帰りましょう」
そうして菜穂と來が席を立とうとしたとき、ふとこんな話が耳に入って来た。
「これであたしらの仕事も終わりだね」
「ああ、羅家の連中に鱗を集められちゃ困りものだ。ここで最後の噂を流せば......」
「羅家の鱗を狙った人が集まる」
「さて、次の仕事に向かおうか」
「そうだね」
声は聞こえたものの、それらしき人が見えない。
わざと菜穂たちにこの話が聞こえるように喋っていたのだろう。
「ご主人様、羅家は元々総の国の有力貴族でした。泰京に屋敷があるのじゃ」
「それで、來は何を言いたいのですか?」
「その......ご主人様が鱗を求めておるなら、先ほどの話はと思って......」
「いいですか、さっきのは明らかに私たちに向けてわざと話しています。羅家の屋敷に向かったところで、どうせろくな目に遭わないですよ」
「で、でも、ご主人様は、あんなにもショウという者に会いたがっているじゃないか。眠っているときも、うなされながら口にしていた名前はショウじゃったし......」
「......」
さっきの会話は明らかに多くの人を羅家の屋敷に押し掛けるようにするものだ。
恐らく、旅芸人の一行もさっきの会話の主と仲間で、いくつもの都市を回って龍神様の噂と鱗の話をばらまいているに違いない。
そしてその羅家から鱗を奪い取る気なのだろう。
菜穂は面倒くさいことに巻き込まれるとわかっていた。だが、來に指摘されたように、約束を守るためにあるかわからない鱗の話にすがろうとしているのも事実であった。
「......わかりました。泰京に向かいましょう。それで、泰京はどこにあるのですか?」
「ご主人様......」
「いいですか、様子見ですから。別に鱗欲しさに向かう訳じゃないですから」
「泰京までは、ここから徒で半日ほどじゃ。今から向かうとすれば、夜に着くじゃろうな。いつ向かうか?」
「噂の事がありますし、今日、いや、今すぐ向かいましょう」
「それはそれは、強引じゃが、いいじゃろう。すぐに家に帰って向かうとしようぞ。ご主人様の強い気持ちはよくわかったからな」
そして二人は遠出用に身支度を整え、近くの馬宿で馬車を借り、泰京に向かうのであった。
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