第16話
美幸は、リビングで、
求人誌をめくりながら、電話番号をメモっている。
「何やっているの?」
「そろそろ働かないと思ってねー。」
「ふーん。」
「ふーんって・・・、お母さんも、バツイチの娘がいつまでも家にいられても嫌でしょ?」
母は美幸の言葉を聞いて黙った。
「とりあえずここに行ってみるか。当たって砕けろだ。」
「砕けちゃダメでしょ。」
「そうだね。行ってきます。」
長い髪を後ろに結び、2、3回しか使ったことがない就活用のカバンを
下げ出ていく。
24歳のバツイチのリクルートスーツが少しきつそうに見えた。
***
「簡単な自己紹介をしてもらえますか?」
「はい、山下美幸、24歳です。前職では・・・」
「はいありがとうございます。」
「3年前に退職とありますが、何が原因で退職されたのですか?」
「子供を授かりまして・・・。」
「あー、なるほど。ちなみに今お子さんは、どこかで預かってもらっている感じですか?」
美幸はその質問に少し考えた後、
「・・・はい、そうです。」と答えた。
別に嘘をついているわけではない。
だが、もう戸籍上は親子ではないので、どう答えるべきか戸惑った。
「そうか、今3歳だから保育園にいるのか。」
「もしかしたら、お前の子供と一緒のとこになるかもな。」
「部長、うちの子もう小学校です。」
「あれ、そうだったっけ?いやあ時が経つのは早いな。」
美幸がその会話を見ながら苦笑いしていると、
「すみません、すみません、関係ない話でしたね。」
「いや、関係あるでしょ、うち結構子育て関係の福利厚生がしっかりしててね・・・。」
部長が、福利厚生について話し始めると、
「すみません。」と美幸は話を遮った。
「すみません、私離婚していて、もう子供とは暮らしていないんですよ。」
乾いた作りかけの笑顔で美幸が言った。
「そうだったんですか、一緒に暮らしていないと言うことは、親権は・・・。」
「父側に渡しました。」
「でも子供はさっき、預かってもらっているって言ったけど。」
「それは、息子の方は今里親に預かってもらっていまして、実際にその方ともお会いしていまして・・・。」
「あーそういう意味で・・・。」
「すみませんね、プライベートなことを聞いてしまって。」
「いえ、自分から話したことですので。」
「そうですか、逆に聞きたいことってありますか?」
「・・・特にありません。」
「そうですか、では今回の面接はこれで終わりということで、
結果はのちに連絡いたします。今日はありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
扉が閉まりしばらくした後、
「彼女どうですか?」
「1年で尻尾巻いて逃げたやつは論外だろう。」
「部長、コンプライアンス!」
「すまん。」
***
電車に揺られながら、面接の時言われた言葉が頭の中を駆け巡っていた。
言葉で頭を殴られ、電車の揺れも合わさって、
軽く脳震盪が起きているような感覚になっていた。
やっぱ逃げたって見えるのかな・・・。
そう思いながら、カバンを抱え落ち込んでいると、
「美幸?」と聞いたことがある声がした。
声が下方向に美幸が顔を上げると、
長身にセミロングの白シャツがよく似合う女性が立っていた。
「優子・・・?」
家庭の事情 男気 @otokogi_41
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