第13話 

優太は慣れない手つきで、ボタンを閉めている。

案の定、一つずれてしまったが、優太はそれに気が付かず

これであっているのだと言うような表情で、幸代の準備ができるのを待っている。

「準備できた?」

優太はこくりと頷くと、ボタンのかけ違いに気が付き、

「あー、ずれてるじゃない。」と、幸代がもう一度締め直した。

3歳になって優太は、保育園に行くようになった。


「浜崎さんおはようございます。」

20代前半ぐらいの若い女性が優しい眼差しで挨拶をした。

「優子先生、おはようございます。ちょっと早かったかな?」

「いえいえ、実くんが先に来てますよ。」

そう言い、部屋の奥に目をやると、少し太った子がアニメを見ている。

「優太くんおはよう。」優子先生が言うと、

すぐには返さずに少し待ってから、

「おはようございます。」と小さい声で言った。

「優太くん中で、アンパンマン見る?」

優太はこくりとうなづく、

「じゃあ実くんのとこに行こうか。」

と優子先生と手を繋いでテレビの近くに行く。

「実くん優太くん来たよ。」

実は、少し眠そうな目をこすりながら、

「おはよう。」と優太向かって言った。

「おはよう。」と優太もさっきよりかは少しい大きい声で挨拶した。

二人はすぐに目線がテレビに向かい、しばらく座ってテレビ画面を眺めていた。

優子はそれを見て少し笑う。

「それじゃあ、よろしくお願いします。」と幸代が優子先生に言うと、

「はい、わかりました。」と返す。

「優太くん、お母さんに「いってらっしゃい」って。」と言うと

「いってらっしゃい。」と、なんのことかわからないような表情でとりあえず言われた通りに言った。

大丈夫かな?と幸代は少し不安になった。

***

8時になり他の園児たちが登園してくる。

9時になるまでの自由時間、園児たちはお互い話したり、

遊具で遊んだりと好きなことをしていた。

実はまだ眠たいのかテレビの前で、座りながら首を落とし寝ていた。

優太はずっとその場から動かずアニメを見ていた。

一人の女の子が、じっと優太を見つめていた。

「すみれちゃんどうしたのじっとして?」

と優子先生は言った後、すみれの視線の先に気づく。

「へぇ。」と少しからかうように、少し羨ましがるように言うと、

「え?違うアンパンマン見てただけだから。」とすみれが早口で言う。

「じゃあ、もっと近くに行ったら?」

「いや、私はここでいい。」

「そう?」

「先生、おはようございます。」

「あら、あおいちゃんおはよう。」

「すみぺ、おはよう。」

「おはよう。あおちゃん。」

すみれと蒼は出会って以来、波長が合うのか仲良くしている。

「すみぺとは、男の子の趣味だけは合わないな〜。」

「どう言うこと?」

「あおい、すみれ、おはよう。」

坊主の男の子が二人に言う、

「ゆういち君、おはよう。」とすみれが言った後

「おはよう。」と少し小さめの声で蒼が続く。

「・・・確かに男の趣味は合わないな。」

「でしょう・・・。」

と二人は遠くを見つめた。

優子はこの光景を見て一人心の中で悶絶していた。

***

「はーい、みんなそろそろ朝の会の時間だから、お手洗い、うがい行くよ〜」

「はーい。」と園児たちは元気な声で言う。

「実くん、顔洗いに行こうぜ。」と優太が言うと、

「めっちゃ眠い・・・。」と実があくびをしながら言った。

「実は俺も・・・。」と優太が言った。

「優太君、実君こっち来て。」と優子の呼びかけに

二人はついていく。

優太は、優子の顔をじっと見たあと、みんなに続いてお手洗いに向かった。

「え、なに?優太君?」と優子は20歳以上離れた子供の純粋な眼差しに少し動揺した。

***

「それにしても似ていたな、優子先生。美幸さんに・・・」と幸代は車の中でつぶやいた。


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