第12話 

美幸と母は、ファミリーレストランで、大して美味しくないエビフライを食べていた。

テーブルにはエビフライの尻尾だけが残った皿が2枚並んでいる。

「食後のデザートになんか頼む?」母が美幸に聞くと

「私はこれで大丈夫」とコーヒーを啜った。

「あらそう・・・、じゃあお母さんはコーヒーゼリーでも頼みますかね。」

「コーヒーにコーヒーゼリー頼むの?」

「いいでしょ、好きなんだから。」

「まあ、いいけど。」

美幸はコーヒーを啜る。

「結局、ファミレスにも行けずじまいだったね。」

美幸が、空になったコーヒーカップの底を見ながらいう。

「ん?ああ、そうだね。コーヒーおかわりいる?」

「あ、お願いします。」と美幸は開いたコップを母に渡した。

美幸は小さくため息をつく、母はそれを背中で感じていた。

お正月の午後、ファミリーレストランには二人以外の客はいなかった。

***

正志は、家で一人缶ビールを飲みながらお正月の特番を見ていた。

テーブルには空になった500mlのロング缶が1本とメビウスと100円ライターを整列して置いてある。

ケータイ電話が鳴る。浜崎さんからだ。正志はテレビの音量を下げる。

「おー、正志さんか、浜崎です。新年明けましておめでとうございます。」

「おめでとうございます。雄太は元気ですか?」

「おー元気にやっているよ。それと今日だけど、うちに来ないかい?

新年の挨拶も兼ねて。」

「あー、すみません会社の新年会と重なってしまって。」

「あー、そうかいじゃあ仕方がないな。それじゃあまた空いてる時でもいいんで優太に会いに来てください。」

「はい、はいわかりました。」

そう言い、電話を切ると、正志は換気扇を回しタバコに火をつけた。

回っている換気扇に煙を吐き、

「飲んじゃってるから無理だよ・・・。」と呟いた。

***

「義信さん、いつぐらいに帰ってくるの?」

美幸は助手席で、雑誌を見ながら聞くと、

「夕方の5時までには帰ってくるって言ってたけど。」

「ふーん、じゃあもうすぐだね。」

と言ってると母の携帯が鳴った。

「あーごめん、美幸とって多分お父さん。」

「はいはい・・・、予想通り義信さんです。」

「はーい、美幸です。」

「美幸か、お父さん後10分で帰るってお母さんに伝えといて。」

「はーい。」

そう言い電話を切った。

「お母さん後10分で帰ってくるって。」

「OK。」

***

テーブルには、グラスに注がれたビールと

出前でとった寿司、揚げ物なのが並んでいる。

「それじゃあ、改めまして新年明けましておめでとうございます。」

義信が言うと、

「おめでとうございます。」と美幸と母が続けて言う。

「えーっと・・・、乾杯。」

「・・・乾杯。」と少ししどろもどろになりながら三人はグラスを合わせた。

「なんかないの新年の抱負的なものとか、挨拶とか。」美幸が少し笑いながら言うと、

「いや、言おうと思ったけどまず飲みたいじゃん。」

そう言い、義信のグラスはもう半分になっていた。

「美幸はないの新年の抱負とか目標とか?」と母が聞くと、

「んー、まずは再就職からですね私は・・・。」

「美幸はそうだね、そうだ体調不良はもう治ったの?」

「それは、もう大丈夫です。」

美幸は産後うつと育児ノイローゼであったが、離婚して正志と離れた後すぐに症状は無くなった。


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