第9話
優太がこの家に来てから、初めての正月を迎える。
「香奈そこの、お雑煮は向こうに運んでって」
「はーい。」
「絢音も、座ってないで手伝いなさい。」
「はいはい。」
香奈と絢音は優太がこの家に来る前に里子として預けられた姉妹だ。
優太とは10歳近く離れており、優太のことを歳の離れた弟のように可愛がっている。
「これで全部か?」
テーブルに並ぶおせち料理を見て昌宏が言う。
「はい。」
幸代が答える。
「それじゃあ・・・、まず挨拶からだな、新年あけましておめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
「ほら優太も」
「おめとうござます。」
拙い発音で、優太が言う。
昌幸が新年の挨拶を続けてると、
「お父さん、お腹すいた。」
絢音が早くおせちを食べたそうに言う。
「そうだな、それじゃあみなさん手を合わせて。」
昌幸の言葉に合わせて、手を合わせる。
優太がそれを見て同じように手を合わせた。
「いただきます。」
昌幸が言うと、
「いただきます。」
とそれに合わせて言う、
「いたたきます。」
優太はそれをまねて同じように言う。
浜崎家でのおせちは、黒豆、栗きんとんと言った形式的な
おせち料理だけでなく、
エビフライやみかんゼリーと言った、子供が好きそうなものも
混ぜ合わせたものだ。
「黒豆は年の数だけ食べなよ。」
香奈が絢音に言うと、
「それって、節分じゃない?」
みかんゼリー食べながら、絢音が答える。
「そうだっけ?、て言うか先にデザート食べるなよ。」
「いいでしょ別に。」
「じゃあ、あたしも食べよっと。」
そのやりとりを見ながら、幸代は料理小さく切り分けながら、
優太の前の皿によそっている。
「それじゃあ、この後準備して初詣に行くぞ。」
昌宏が言う。
「今年は、大吉引くからね。」
香奈が言うと、
「去年、末吉だったもんね。」
絢音が、うっすらと笑いながら言った。
***
参道にはかなり人が並んでいる。
「結構並ぶな。」
昌幸は、優太と歩きながら呟いた。
「お正月だからね。」
幸代が言う。
「お母さん、先におみくじだけ引いてきてもいい?」
香奈が聞くと、
「うーん、そうだね、じゃあ先におみくじだけ引いちゃうか。」
「お父さん、この子達連れて先におみくじのところに言ってるね。」
「はーい。」
「じゃあ行こっか。」
「行っちゃったよ、こっちは男二人で並んどくか。」
昌幸が優太に言うと、優太は小さく頷いた。
***
「小吉・・・」
香奈が、おみくじに書かれた文字を見ながら呟く。
「よかったじゃん、去年より一つ上じゃん。」
絢音が、香奈に自分のおみくじを見せながら言う。
「え?大吉になるには後2年かかるの?てか今年も絢音大吉かよ〜。」
「ちなみにお母さんは?」
そう言い、絢音が幸代が引いたおみくじを見ると、
”大吉”と書かれていた。
「なんでウチだけ!。」
「交換する?」と香奈が言うと、
「それだと意味ないじゃん。」
と少し不貞腐れながら言った。
***
人が多くなってきたのと、長いこと並んでいて
足が疲れたのか、昌幸は優太をおんぶしながら並んでいた。
「長いなー。」
昌幸が言うが優太は特に何も反応しない、
「おーい、優太。・・・寝ちゃってるよ。もうすぐだぞ。」
と優太をゆすって起こした。
ゆっくりと優太は目を開けると、
「もうすぐ、俺たちの番だぞ。」という。
前には二人並んでいる。
次の番になると、昌幸は優太を下ろして、首を軽く回す。
「優太、お父さんの真似をしてからお願い事をするんだぞ。」
そう言い、昌幸は一礼二拍手一礼をした。
優太もそれをまねた。
「よし、じゃあおみくじ引きに行くか。」
そう言い、優太をおんぶして、おみくじ売り場に足を進めた。
「優太は何をお願いしたんだ?」
「エビフライ。」
「エビフライ?エビフライが食べたいのか?。」
優太は小さくうなづいた。
「そうかー。」
そう言って昌宏は笑った。
***
美幸が、ファミリーレストランでエビフライを食べている。
「どうしたの、急にエビフライ食べたいなんて。」
美幸の母が問いかけると、
「初詣に行ったら、耳に入ってきちゃったのよ。」
「何それ。」
そう言いながらも、母もエビフライを食べている。
「そういや、詩織ちゃんの養子先見つかったの?」
母が美幸に尋ねると、美幸は何も言わずにうなづいた。
「そう、一応聞くけどあなたはそれでいいの?」
「もう決めたことですから。」
「そう・・・。」
美幸は感情を押し殺す時に無意識に言葉遣いが丁寧になる、
そのことは母はそれを知っている。
「ここのエビフライそんな美味しくないね。」
美幸が話を逸らすように言うと、
「美幸もそう思う?」と母が言った。
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