第6話 

「今まで、ありがとうございました。」

そう言い、美幸は家を出て行った。

扉がバタンと閉まると、正志は大きくため息をついた。

冷蔵庫から缶ビールを取り出し、テレビをつける。

ちょうどゴルフの中継をしていた。

こう言った番組は、今の正志には助かった。

元々、ゴルフが好きだったこともあるが、

この手のスポーツ番組は、ニュースやバラエティのように不意に放たれた言葉や情報で、思考がネガティブな方向に持っていかれるということがない。

とにかく今は、家族や子供については考えたくなかった。

ビールを一缶開けると、そのまま布団に転がった。

そしてそのままテレビをつけたまま寝落ちした。

美幸は、一度実家に戻るために電車に乗っていた。

美幸の実家は高知県で、ここから6時間ぐらいはかかる。

これは帰れるのは夜になるな・・・。

時計を見ると、短針は2時を差している。

美幸は、スマホで優太と詩織の写真を見ていた。

二人とも笑っていて、美幸と一緒に写っている写真もいくつかあった。

美幸はそれを見ながらどこでボタンを掛け違えたのか確認していた。

不思議なことに、優太との写真は何枚かあるが、詩織との写真は一枚もなかった。ある日を境に二人の写真がパタンと無くなった。

その日に一体何があったのか必死に思い出そうとするが思い出せない。

正志は、美幸のことを否定しなかった、ただ肯定もしなかったし、感謝の言葉もなかった。病気でずっと寝込んでいた時も、何も言わなかった。

優太たちを浜崎さんのところに預けて、よりいっそう頑張ろうという気持ちが無くなり、ずっと寝ていても何も言わなかった。

そしてそんな状態が3ヶ月ぐらい経った時に、離婚を切り出された。

「俺たち離婚したほうがいいと思うんだが・・・。」とバツが悪そうに言った正志の顔が脳裏に焼き付いている。

「そうですよね・・・。」と美幸もまた申し訳なさそうに答えた。

この3ヶ月はほとんど介護に近く、夫婦でいることの意味を次第に感じなくなった。

夫は妻に安らぎを求め、妻は夫に安心を求めていた。

いや違う、正志は世話してくれるお母さんを、美幸はちゃんと愛してくれる父親を求めていたのかもしれない。

実際は、なんでもやろうして何にも出来なくなった女と、愛情の注ぎ方を知らず人を傷つける男だった。

美幸はスマホを閉じ、車窓から移り行く景色を何も考えずただじっと眺めていた。

結局、美幸が実家に着いたのは夜の10時を過ぎた頃だった。

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