第5話
児童相談所に戻り、今後の手続きなどの説明を受けた後、
正志と美幸は家に帰った。
車の中では終始無言であった。
優太と詩織がいない部屋に思わず、
「なんかこうなると寂しいな。」
と正志がつぶやいた。
美幸は黙って小さく頷いた。
「そういや、飯まだだったな、なんか欲しいものある?」
美幸は、何も喋らず首を横に振った。
「そうか、じゃあ、適当になんか買ってくるわ。」
そう言い、部屋を出ていった。
美幸はリビングの椅子に腰をかけ。
テレビを眺めた。何も映っていないテレビをぼーっと眺めていた。
正志が家に帰ってくると、唐揚げ弁当を2つとペットボトルのお茶2本をテーブルの上に置いた。
「ありがとう。」と美幸が小さい声で言った。
「しまった箸、もらうの忘れてきた。まあ、余っているのあるからいいか。」
そう言って引き出しから、割り箸を2本取り出し,冷蔵庫から缶ビールも取り出した。
そこに夫婦の食事、家族団欒といった空気感は無く、まるで見知らぬ男女が偶然相席になってしまったようなそんな雰囲気がそこに漂っていた。
正志は、腫れ物に触れるかのように傷つけないように慎重に接しているつもりでいた。
美幸はこの人なりに気を遣ってくれているとわかっていながらそれは違うんだよなと思っていた。
元々、正志はあまり気配り、気遣いがうまい方ではなかった。
気遣い、気配りができる人間は総じて、人の気持ちに敏感だ。
正志は残念ながらそのような感性はほとんど持ち合わせていない。
下手な気遣いは人を傷つけるだけだ。
案の定、美幸の心はただでさえボロボロなのにさらに傷ついてしまった。
頑張って母親でいよう、その気持ちで辛いながらもなんとか踏ん張れて来ていた。だがそれももうなくなってしまった。
この男の妻でいることのモチベーションはとっくに無くなっている。
そして正志も、多分同じなんだろうなと思っている。
その夜、美幸は一睡も出来なかった。
正志は、大きないびきをかきながらその隣で寝ていた。
その半年後二人は離婚した。
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