第4話
「…はい、それでは夜の7時ごろによろしくお願いします。」
古橋は、ゆっくりと電話を切る。
「谷川児童相談所」
まともに子供を育てられなくなった時の駆け込み寺のようなところだ。
古橋はそこの職員だ。
中肉中背で、うっすらと白髪があり60代ぐらいに見えるが59歳の、物腰が低そうなおじさんだ。
今から、正志と美幸は優太と詩織を里親のところに連れていく。
「それじゃあ、行きますか。」
古橋が言うと、
「よろしくお願いします。もう、準備できてる?」と、正志が美幸に確認する。
「うん。」
と美幸は、詩織を抱えながら短く、疲れた笑顔で頷いた。
4人は、古橋の運転で、浜崎家に向かう。
玄関から出てきたのは、小柄なおばちゃんだった。アニメやドラマとかで出てくる食堂のおばちゃんをイメージしてもらうといい。
「どうも遠くから。さあ、入ってください。」
そう言い、古橋たちを家の中に入れた。
車で30分もかからないところなので、別段遠くはないがそう言ってくれた。
浜崎家は、2階建ての一軒家で、バーベキューができるくらいの庭と、車を止める倉庫がついている。
正志は、ほんのちょっとだけ劣等感を抱いたが、美幸は自分の子供預けるということへの、不安感が少し消えた。
浜崎さんたちは、正志と美幸によりも一回り以上年上で、その分芯がしっかりしていると言うか、信頼できそうな雰囲気があった。
ただ年を食った人たちではないと、美幸はそう感じていた。
優太は、いつもと違う広い家にテンションが上がったのか、その家の廊下をグルグルと回った。詩織も優太の背中を覚えたてのハイハイで追っかけている。
「元気な子ですね。」
「そうなんですよ。」と笑って答えた。
その後ろで、正志と
優太はいっぱい走って疲れたのか、リビングの床にペタンと座った。
昌幸はリビングに座った優太を抱え、
「ここで住むか?」と聞いた。
優太は一瞬なんのことかよくわからなかったのか目を泳がせながら
こくりと頷いた。
「そうか、ここで住みたいか。」と昌幸はにっこりと笑った後、正志の方に目をやった。正志はただ黙って
「詩織ちゃんは、まだ1才なので平日は施設で、土日にここに来るという形になりますがよろしいですか?」幸代が美幸に聞くと、
「・・・はい、古橋さんから聞いています。」と答えた。
形だけの笑顔浮かべながら美幸の目から力がどんどんなくなって行くのがわかった。
「すみません、トイレお借りしても良いですか?」
「はい、そこの階段の前がトイレです。」
美幸は、カバンを持ってトイレに避難するようにゆっくりと入っていった。
カバンから錠剤を取り出し、口に放り込んで水で流し込む。
深呼吸して、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせた。
鏡に映る自分の顔を見て、また疲れた顔で笑った。
「美幸さん、大丈夫ですか?」
幸代が正志に聞くと、
「難しいと思います。一回無理心中を・・・。」
と正志言いかけたときガチャとトイレの扉が開き、
「すみません、長いこと。」と美幸がトイレから出て来た。
「いえいえ。お子さんたちも、疲れて寝ちゃってますし。」
「あ、そうなんですか。」
「もうそろそろ、帰りますか。」
古橋が言うと、
「そうですね、そうします。」
「それじゃあ、二人のことよろしくお願いします。」と正志が言うと、
「よろしくお願いします。」と美幸が続けるように言った。
玄関の扉がゆっくり閉まると、
「さっきのことは別に聞かなくてもいいよな。」
「絶対に言いたくないし聞かれたくないことでしょうしね。」
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