第6話『試合はいつだって』





『試合はいつだって、自分のミスで負けて、仲間のファインプレーで勝つんだよ』






3年で引退した渡辺マネージャーの言葉だ。

脆弱高校バレー部、現部長は、今になってそのセリフを思い出す。



思えば、部長になってからずっと「その逆」をやってきた気がする。



自分が率先して強くなり、自分が模範になり、自分が引っ張ってチームを強くする。その事ばかり考えてきた、それが間違いだとは思わない。


だが、今現状、あと1点で1回戦敗けする現実を目の当たりにすると

流石に弱気にもなる。



だが、そんな様子は部員に見せられない。

俺がこのチームを引っ張らなきゃ・・・





六畳のサーブ






ついにレシーブが上がる。



「・・・ッ・・・っしゃあああああああああ!!」


絶叫する相手リベロ



その迫真の声に少しびびるが、気を取り直す。

相手のチャンスボールだ。





相手エースが助走に入る。






・・・ヤバい・・・ストレートガラ空き・・・



ドン!




腹に響くようなスパイク音と共に打ち下ろされるボール

体育館の床に突き刺さったように見えたそれ


いや、かろうじて誰かが拾ってる。




「六畳!」

「ナイスレシーブ!」




(マジかよ・・・相変わらず反射神経だけはいいな・・・あいつ)

セッター斎藤がセットモーションに入る。





「俺に寄こせ!!!!俺が決める!!!」





部長の叫び声

堅実なセッター、いやどちらかというと気の弱いセッターである斎藤が

怖い部長の命令に逆らう選択肢はない。



(よし・・・部長に・・・)




ん?




レシーブ・・・




六畳のレシーブ?




ふと思い出す。



六畳のレシーブは「駄目」じゃん

なぜかつながらないレシーブ、六畳のレシーブからのトスは位置が狂うだろ。


そうそう、いつも変な回転がかかってさ・・・


あー今日はいつも以上の回転かかってるし




「うおおおお!!」




叫ぶ部長



(ここでミスったら・・・)




殺される!





斎藤の弱弱しいツーアタック、

意表を突いたボールが相手コートにポツンと落ちる。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る