第4話 分水嶺の男(1)
微かに潮の香りがしていた。
「船のなかで、お前は
銃を手にしたままで
「引き金に指がかかっている。指を外せ。誤射するぞ」
亮一が言う。
「安全装置がかかってる、はずだぞ」
シェンメイは言う。しかし、次の瞬間、銃声がこだまし、弾丸は道路のアスファルトを穿った。
「言わんこっちゃない…」
「この銃の安全装置はどうなってるんだ!」
逆ギレした
「グロックの安全装置はトリガーに指をかけると解除される。そういう銃だ。だから指をかけるな。素人だなあ」
亮一はつぶやくように言った。
さきほどの銃声に驚いたのは二人だけではなかったようだ。誰も立ち入りが許されていないこの場所で、歩み寄ってくるものの影があった。
「た、助けてくれ…」
男の声。
二人の前に現れたのは、傷ついた中年男だった。破られ剥き出しになった左腕は黒く染まりゾンビ化している。しかし、その腕の根本はしっかりと縛られ、ウイルスは身体にまでは入り込んでいないようだ。
男は腕を突き出す。右腕は人間。左腕はゾンビ。男はいま、人と人ならざるものとの分水嶺にいた。
「助けて、てくれ」
男は再び二人に助けを求めた。
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