過去②
「ただいま〜」
「あらおかえり。楽しかった?」
今日はママがおしごと休みの日。
じどうかんに行かず、友だちとのやくそくもないので私はまっすぐいえにかえった。そして、一ばん言いたいことを言う。
「ねえママ! ここなちゃんといっひょにここかよいたい!」
私はランドセルからここなちゃんからもらったチラシを取り出した。
ママはそれを見て……一気にかおがくらくなった。
「……みかん」
「なあに……? どうひたのママ」
「通うのはちょっと無理、かも……」
……なんで? って言おうとして、私はだまった。
小学二年生でもわかる。
ここなちゃんは、中学じゅけんというもののために小二なのにじゅくに行っていて、すごくあたまがいい。
そして大きな家にすんでいる。
私はマンションの中の小さなへやにすんでいる。
私は、ママのうしろからチラシをのぞきこんだ。
一レッスン、五〇〇〇円。
五〇〇〇円はとても高いということを私はしっていた。
りんたがいっしょうけんめいおこづかいをためて買おうとしているサッカーボールがたしか二〇〇〇円くらい。それが……えーと、二こ買えて千円あまる。一回ならうだけでそんなに……。
「あ、ママ。別にいいのやっぱり」
私はそう言ってとなりのじぶんの小さなへやに行った。
夜。私はテレビを見ていた。
ここなちゃんの家は、うすっぺらいのだけど、うちのはぶあつい、あと小さい。
でも、私が一人で見るのにはこまらない。
私はプリンキュートがきらいだ。
そのかわりに見ているアニメは、『ジュエリーアニマル』というアニメ。
私はそのしゅじんこうの女の子につよく、あこがれていた。おじょうさまでたくさんごうかなデザートをたべている。かわいいふくをきている。
そして、だんすのせんぞくコーチがついていて、ダンスをれんしゅうしていて、そしてダンスでどうぶつの心をうごかし、世界をすくう。
いいなあ……。
私もあんなおじょうさまになりたかった。
CMにはいり、げんじつにもどされる。
明日ここなちゃんになんて言おう。
ここなちゃん、わたしをばかにするかもしれない。「し」も言えなくて、ダンスきょうしつにもかよえなくて。
CMがおわった。
『私、ダンスが好きですわ。世界をダンスですくいますわ』
『それでこそおじょうさまです。さあ、こちらへ』
そうして今日もへん身して、ダンスをおどり、世界のもんだいをかいけつする。
そしておともだちがたくさんできる。
どうして、私よりもこのしゅじんこうはこんなにしあわせなの……?
私はいつのまにか、このしゅじんこうに、「ずるい」と思うようになっていた。
なみだがでてきた。へんなあたたかさのつらいなみだだった。
なみだがかわいた時、私はきめた。
私はうそをつくことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます