過去③
私は朝はやくとうこうした。
ここなちゃんはとても早く学校に来て、じゅくのしゅくだいをやっている。たくさんおべんきょうしてて、ダンスもがんばってて、えらい。
「あ、みかんおはよ! ダンスきょうしつ申し込んだ?」
「入りませんわ」
「え? あれ、みかんしゃべり方かわった?」
「変わったですわ。ずっといわないでいたことを、ちゃんと、ここなちゃんに言おうと思ったですわ」
「えっと……」
ここなちゃんはふしぎそうなかおをして、じゅくのテキストに目をおとし、そしてまた私を見上げた。
「私、じつはおじょうさまですわ。だからダンスのおへやにはいかないですわ」
「どういうこと?」
「せんぞくコーチがついていますわ」
「せんぞくコーチ? こべつに教えてもらえるってこと?」
「はいですわ」
「すごい! みかんってそんなにおじょうさまだったんだ! じゃあダンスきょうしついっしょにかよえなくてもしょうがないね」
今思い返すと、小二の考えた幼稚な精一杯の嘘だった。そしてそれをここななちゃんは受け入れた。
そして……。
「あ、ここなちゃん、みかんちゃんおはよだし! ダンスきょうしつもうしこんだしー!」
「私もだしー!」
ダンスクラブでいっしょの人がぞくぞくあつまってきた。
そして、私はその人たちにも、おなじうそをついた。
「みかんってじつはおじょうさまだったんだね、びっくりだしー!」
「しゃべり方もおじょうさまで、似合ってるし!」
「よかったですわ。おじょうさまだからことばづかいもこれでなくてはいけないといわれたですわ」
「そっかー、確かに「だしー」っておじょうさまっぽくなくてよくなさそうだしー」
「みかんはおじょうさまのしゃべり方がにあってるね。それにしてもいいなあ、せんぞくコーチがいるなんて」
こうして「おじょうさま」のわたしは受け入れられた。
ひさしぶりにみんなのわに入れた。
わたしはたのしかった。そしてふと、はなれたところに目をやると……。
よごれたサッカーボールをもって、ひとりでいる、りんたと目があった。
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