みかん⑤電車の中で


 駅の北口から改札に入る。


 凛太と私は、空いていると思われる10号車の乗り場に行った。


 アナウンスとともに、電車がホームに入ってきた。


 先頭が1号車だから、来たと思ってもなかなか止まらない。


 電車の最後尾が目の前に来て、窓から中を見ると、とても空いていた。


「おお……思ったよりも空いてるな……」


「ですわね」


 凛太とは、かなりの時間を一緒に過ごしている。だけど、こうして二人で出かけるまでの道のりは、いつもとは違う時間だと思う。


 だけど、


「眠いな……」


 二人並んで座って三秒。ダンスだったら、まだ並んだだけでミュージックスタートしてないくらいの段階で、凛太はそんなことを言う。


 というか、実は私も眠い。


 昨日も夜遅くまで、自分たちのダンスの動画を見て修正点を洗い出す作業をしていた。


 だから


「私もですわ」


と返したけど、その時にはすでに、凛太は眠る寸前? という感じでいつもに増してぼーっとした雰囲気をだしていた。



 ちょっと、思い切ってみようかな。


 私は凛太に軽く寄りかかってみた。


「……眠いなら……その体勢で寝てもいいぞ……僕も寝るから。終点だしそれまでには起きる……と思うし」


 あれ、思ったよりも普通。


 でもせっかくだからそのまま私は凛太に寄りかかって目を閉じた。


 凛太と触れている肩が、優しく温められたホットケーキのようにあたたかい。


 そして、そのあたたかさは、あの時のまま。


 私は、昔のことを思い出していた。


 私が凛太に初めて恋をした時。


 そして、私が「ですわ」という口調で話すようになった頃のことを。

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