つり革
そして、あの会話はあの謎な雰囲気のまま終わり、それから日が経ち、未来の卓球の応援に行く時がやってきた。
会場の体育館の最寄り駅までは都心方面の電車で一本で楽。
時間もあるので各駅でずっと乗って行くことにした。
「うわ! 川渡ってる。あ、下に魚が見えるよ!」
花凛は電車に乗ることが少ないから、小学生らしいハイテンションぶりだ。
僕は花凛に言われて、窓から下を見てみるが、川の水面以外よく見えない。花凛は視力がいいからな。僕も小学生の頃はもっと視力が良かった。
「私も見えますわ」
「みかんも見えるのか……」
僕は頑張って見ても、やっぱり見えなかった。
川を渡り終え、そこから建物が並ぶ風景を眺めること三十分ほど。電車は地下に潜り、目的地の駅に到着した。
「さて、ここからエスカレーターで上がると南口のはずですわ。そこの前にバス停がありますわ」
みかんは下調べがしっかりしているので頼もしい。
僕は美味しいお子様ランチが出てくるのが保証されているレストランに来たような気持ちで、みかんについて行った。
バスは十分おきで、流石まあまあ都会という感じの時刻表だった。
早速来たバスに乗り込む。隣の駅発だったようで、すでに混んでいたので僕たちは並んでつり革につかまって立った。
「花凛も届くのか……背が伸びたな」
「背伸びただけじゃないよお兄ちゃん」
「……わかってる」
昔は座れないだけで不機嫌になってたもんな。いや、それは幼稚園の頃の話だからかなり前か。
「それで……なんでみかんはいつの間にか僕の腕を握ってるんだ……?」
「つり革がありませんわ」
「みかんの真上に……あるけど。電車から見る魚なんかと違って……どう見ても見えるぞ」
「ないですわ。ま、まさか凛太が見えるのは、彼女でもない女の子とくっつくと見えるようになるという噂の伝説のつり革ですわね」
「なんだそのつり革は……。しかも混んでるんだから……花凛とくっつくのはしょうがないだろ……」
「花凛は関係ありませんわ。自覚がないのですわね凛太」
え、そうなのか……。ということは僕の後ろに立っている男の人が実は男装した女性で……? ってことか。
どう見ても普通のおじさんに見えるけどな。
僕が不思議がって首をかしげると、みかんが珍しく、それこそ小さめのみかんでも入っているかのようにほっぺを膨らませた。
僕はこの前のみかんのほっぺの感触を思い出してしまう。
柔らかかったな。そうだ今もう一回……。僕はそんなことを考えてしまい、自然にみかんのほっぺに手が動いていきそうで、つり革を両手でしっかりと握った。
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