高速回転


 料理部の活動を終えて家に帰ると、なぜかみかんの靴がすでにあった。


 ダンス部の練習終わって着替えてから学校を出て……早すぎる。


 相当急いできたのかな……。


 少し不思議がって自分の靴を脱いでいると、


「お兄ちゃん! 大変! みかんと帰りに会ったから一緒に帰ってきたんだけどねー、みかんがずっと踊ってるの! どうしようお兄ちゃん」


 花凛がアイスを落とした子どものようにわたわたしてこっちに来た。


「よくあるじゃないか……ダンスでこだわりたい部分があったりすると……家でも外でも踊ってることがある」


「なんかでもいつもと違うよ! とにかくお兄ちゃん来て!」


 花凛に手を引かれ、リビングに入ると、みかんが高速回転していた。なんだどうした? 花凛の言う通り確かに変だ。


「今度のダンスは……なかなかハードだな……」


「あっ、凛太!……ああっ、あっ、目が回りますわ……」


「そうだろうな……」


 みかんはよろよろとこちらによろけてきて、僕に飛び込んできた。っていっても万実音ちゃんよりは大きいから僕は抱きつかれたような格好になってしまった。


「大丈夫か……?」


「大丈夫ですわ。これで今日最も凛太にくっついた女の子になりましたわ」


 言われてみれば、胸やお尻が……いやそれ以外も。なんだこのもっとうもれたいと一瞬思わせるような感触……。


 万実音ちゃんの時とは違って、離れようと思えば離れることができたのかもしれないが、頭がそんなことを考えることができない状態になっていた。


「はーい、カップ麺お子様ランチ味のの出来上がりだよ。そこまで」


 花凛が僕とみかんをおいしょと離した。三分もくっついてはいなかったと思うが……。


「お兄ちゃん、まあとにかくみかんの激しいダンスを止めてくれてありがとー」


「おお、止めたというか止まった……のだが」


 みかんは椅子に座って頭を抱えていた。目がものすごく回っているのか辛そうだ。


「やっぱり…目が回りすぎてるじゃないか……」


「凛太頭なでなでしてくださいですわ……」


「それでなおるとは思わないが……」


 今日のみかんは確かに少し変わった調子だ。


 僕がみかんの頭に手を伸ばすのと、みかんが「凛太ぁ」と振り返るのが同時だった。


 僕の手はお子様ランチのおにぎりバージョンを作るにあたっておにぎりを注意深く握る時のように、みかんのほっぺをそっと手で包んでいた。


 あ、そしてここでさっきの感触が再来した。


 みかんのほっぺの上で僕は思わず指を小さく動かしてしまった。


 花凛は結構大きめの声で、


「はーい、カップ麺お子様ランチ味特大バージョンの出来上がりだよ」


と言ったのだと思うが、僕には小さくしか聞こえなかった。

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