みかん② 凛太とくっついている女子がいますわ
着替え終わった私は渡り廊下を渡って自分の教室に向かっていた。
しかし、私は渡り廊下の真ん中より手前で、立ち止まってしまった。
凛太と一人の女子が二人でいた。
私が着ている制服でも中等部の制服でもない。他校の制服。昼休みなのにどうして他の学校の人が……? と思うよりもまず、凛太と何を話しているのかが気になった。だから思わず、二人をもっとよく見ようとした。
凛太と話している女子は私の知っている人だった。
小柄で可愛らしい様子は、前に会った時と変わっていなかった。
私は気づけば、渡り廊下を引き返し、廊下に戻っていた。
ダンスの時も身体が勝手に動くけど、この時に身体が勝手に動いたのはそれとは全く違っていた。
しかし、凛太とその女子はこちらに歩いてきて、渡り廊下の端で止まった。
「久しぶりだね。あ、ちょっと背伸びたのかも? 私あれから一センチも伸びてないんだよね」
「ああ久しぶり未来……背は少し伸びたかもしれない……」
久しぶりってことは凛太も長い間会っていなかったってことか。
しかし、凛太が名前を覚えていて、しかもかつて呼んでいたように下の名前でその女子の名前を呼んだことが、私を動揺させた。
凛太と話している女子は、西ケ谷未来にしがやみくという。もともと私と凛太と同じマンションに住んでいたが、引っ越して東京の都心の方に行ってしまった。
引っ越した後も何回か会ったことはあったけど、高校に入ってからは一度も会っていなかった。
「……それで……なんでこんな時間に……ここにいるんだ……?」
凛太が尋ねた。
「あ、それはね、今日放課後、ここで卓球部の練習試合があってね。学校今日開校記念日で休みだから早くきちゃった。だって会いたかったんだもーん」
「……僕にってこと?」
「そうだよ。だってずっと会えてなかったし。私ほんとうれしいんだよ?」
未来がそう言った後、未来が動いたと思われる足音がした。さっとのぞいてみれば、未来が凛太の腕をくいと引っ張って、それから凛太の腕にぺたとくっついた。
「ああ……僕も久しぶりに会えてよかった」
なんかすごく二人きりで切り取られそうな感じ……。凛太も嬉しそう。後ろ姿だけどなんとなくそんな感じがする。
「みかんとは……会ったりはした?」
「みかん? まだ会えてないんだよ」
「たぶん昼練終わって……そろそろ教室には戻ってると思うから……みかんのクラス案内しようか……」
私は凛太の言葉を聞いてスタートダッシュの準備をする。凛太と未来が歩き出したら、私は猛スピードで走って教室に行って席につき、「あ、凛太どうしたのですわ? あ! 未来ですわ! 久しぶりですわ!」って言わないと。
「みかんにも会いたいけどー、多分放課後会えるし、ちょっともう少しお話ししたい。凛太とね」
そう言って未来は、制服の胸元のリボンの全体がくっつくくらい凛太に寄った。
「そんなにか……」
「だってみかんは時々連絡くれるけど、凛太全然くれないんだもん。何にもわかんないし。まず何部入ってるの?」
「……料理部だけど」
「……料理部か。もしかしてお子様ランチ作ってるの?」
「そう……」
「サッカーとか、他の運動は?」
「……してない」
凛太は、両親が離婚する前まではサッカーをやっていた。未来にはそのイメージがまだ強く残っているのかも。いやそれどころじゃない。凛太と未来、二人でダンスしているみたい。そのままどんなダンスが続くのか想像している場合じゃないのに想像してしてしまうのが一応ダンス部部長の証拠。
「そっか〜、昔は一緒に朝走ったよね」
「……そうだな」
「私としては、また凛太と一緒に走ったりしたかったなー、またいずれこっちに戻ってくるかもしれないし。でも、お子様ランチもきっとやりがいあるんだよね」
「……それはある。みかんも、花凛も、料理部の後輩も、児童館の子もみんなおいしいっていってくれるから……僕は満足している」
それだけじゃ足りない! もっと、女子小学生があだ名をつけてくれた話とかを雄弁に語って、そして未来がどん引きして、やっぱり凛太を分かっているのは私だけですわ……って、違う。なんか私今ちょっと性格悪いこと考えてた気がする。
私はダンスの本番前のように深呼吸をした。
「そうか、ならいいと思うよ……あ、そうだよかったら、今度ね、私の卓球の試合あるんだけど、応援……」
「……おお、行く」
凛太即答!
……私もダンスの発表会見に来てもらってるもん。
なんか張り合っちゃった……。
結局、チャイムがなる寸前まで話していた凛太と未来を、ずっと見張っていたみたいになってしまった。
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