自信を持って欲しいですわ
七時半になったと同時に、文化祭実行委員の人々が部屋に入ってきた。時間きっかりなのが文化祭実行委員の怖さを引き立てている。
文化祭実行委員会委員長の石本と、僕と同じクラスの文化祭実行委員である武田だ。
「では、第一回代表者会議を始めましょうか」
石本が、教室の中央に来るなり言った。
みかんたちや、他のしゃべっている人々が、話すのを一瞬にしてやめる。
石本は静かになった教室を監視するかのように目線を動かしながら間を置いて、
「まず、連絡事項です……」
流れるように話し始めた。
連絡事項は細々としていて説明してもつまらないと思うので、とばそうと思う。
連絡事項の伝達が終わった後、次は、今日のメインイベント? かどうかは微妙だが、各団体自己紹介なるものの始まりだ。
「ではここからは、武田が司会兼質問者となって、各団体の自己紹介にうつりましょうか」
石本が武田にバトンタッチする。
武田は、文化祭実行委員の中で一番怖くないと僕が認定している人だ。
「あ、じゃあ団体紹介始めるぞ、じゃあ教室の左前から……」
武田に言われて教室の左前に座っていた、大柄な男子生徒が立ち上がる。サッカー部の部長だ。
「サッカー部です。サッカー部はまず、いくつかの強豪校を呼んで対外試合をします。それに加え、サッカー体験もやろうかなと、あと、できたらステージでリフティング大会とか……」
「お! いいね! やろうろやろう俺ら協力する!」
とここで勢いよく反応して手を挙げた団体が。名称は知らないがステージの企画をしている団体のはずだ。
このように、各団体がどのようなことをやるのかを説明することで、協力関係が生まれる。
しかし、料理部と協力するのにふさわしそうなところはない。料理部がやってること変わってるもんな。普通の料理を作る人がいないんだもんな。
いつの間にか僕の左隣の羽有まで順番が回ってきていた。
「ぬいぐるみ部と言います。そもそも存在自体知らない人が多いと思うんですけど、僕たちはぬいぐるみ部で女子小学生をはじめとして多くの人々を笑顔にすることを目標としていて……」
話続ける羽有から教室全体に向けて目を向けて初めて気づいた。
みんな無反応。いや、少しいた。
「あの羽有って、ぬいぐるみ大好きロリコンの……」
「そうそうその人だよ」
ここで気を遣って武田が質問を始めるが……それでも雰囲気は変わらず。
そして僕の番が回ってきた。ぬいぐるみ部と同じ感じになる気がした。
「料理部です……料理を作っています……」
あれ、他に言うことあったっけ。
ここで僕は止まってしまう。
「文化祭では何を振る舞う予定かとか説明するといいと思うぞ」
武田が僕に助け舟を出してくれた。
そっか。文化祭で何を作るか……。文化祭では例年料理部はそれぞれの部員が作りたいものを作るから……。
お子様ランチと、カプセルに詰まったグリーンピースと、みかんの見た目をしている桃味のケーキか。
一つもまともなのがないんだが……。
「ええと……色々……作っています……」
「色々……、つまりそれは来てからのお楽しみってことか」
「はい、あ、そういうことで……」
「……じゃ、じゃあ次行くぞ、ダンス部……」
もしかして、これ、料理部の紹介、失敗したかな……? 僕の頭の中に、小さな子供がゼリーを開けるのに失敗してゼリーが外に飛び出てしまった光景が浮かぶ。きっとこんな感じなんだろう。やってしまった。
「大失敗でしたわ。お子様ランチをまるごとひっくり返したくらいおっちょこちょいですわ」
「わかってる……」
代表者会議が終わった後。廊下で僕はみかんに叱られていた。
「どうしてあんなになってしまったのか知りたいですわ。お子様ランチをアピールすればよかったのにですわ」
「いや、お子様ランチなんて言ったら……引かれるし……恥ずかしいだろ……」
今思えばみかんの見た目をした桃味のケーキはまだまともだからそれを言えばよかった。
「凛太」
「なんだ……」
「お子様ランチは、恥ずかしくありませんわ」
みかんと目があった。
「え……」
「だって、私は美味しいと思いますわ。花凛はきっと一番凛太のお子様ランチの良さをわかってると思いますし、お子様ランチのお礼にあだ名を考えてくれた小学生だっていますわ。それに料理部の後輩も協力してくれてるって前に凛太が言ってましたわ」
「……」
「凛太が恥ずかしがって作ったお子様ランチを誰も美味しいとは言わないと思いますわ。だから自信を持って欲しいですわ」
「みかん……」
そう、僕は恥ずかしがっていてはいけない。美味しいと言ってくれている人に失礼だ。みかんのおかげで今、気づくことができた。
「みかん、ありがとう」
「お礼はいいですわ。それよりも凛太にお願いがありますわ」
みかんと僕は歩き出した。みかんは渡り廊下に僕より先にぴょんと出ると、
「近いうちに、また、お子様ランチを作って欲しいですわ、凛太」
そう言って、明るい渡り廊下に一歩踏み出した僕を振り返って笑った。
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