たうっお兄ちゃんたう
次の日。僕が起きると、花凛はすでに起きていてどこにいるのかと探せばベランダにいた。
「朝早くから外に出てどうした……ラジオ体操でも始めたのか……?」
「ううん。雲の観察をしてるんだよお兄ちゃん。今度はちゃんと、雲の種類とかを調べてやろうと思って」
「えらいな……頑張れよ」
僕も空を見上げてみる。
空には羊雲のような雲が浮かんでいた。いや、雲についての知識がないのでわからないが。
見ていると僕もなにかに例えたくなる。昨日のような観察記録を書いた花凛の気持ちも少しわかる気がした。
朝ごはんや準備を今日はぱぱっと済ませる。まあ朝ごはんのメニューはいつもと変わらないけど。
いつもより急いで出る理由は、僕も今日、朝から用事があるからだ。
花凛もなわとびダンスの練習を友達と校庭でするらしいので、僕と花凛は一緒に早く出た。
いつもより早いとはいえ、みかんのダンス部の朝練よりは遅い。つまりどうなるかといえば、小学校と僕の通う渚ヶ丘学園の分かれ道まで、妹でと二人で登校だ。
「……」
さっきまで、歩きながらも時折外を見上げて雲の観察を続けていた花凛が、いつも間にか僕を見ていた。
「どうした……?」
「ううん。お兄ちゃんと二人でこの辺歩くのって、昔はよくあったけど最近はなかったよねーって考えただけ」
「そうだな……昔は……あそこの垂れ下がってる木の枝にぶら下がりに行ったりしたな……」
「したねー」
枝は今でも折れていなくて健在で、きっとこれからもたくさんの子供達をぶら下げるのだろう。
横を見ると、花凛の赤色のランドセル。思ったよりもその位置は高かった。
そして目線を前に戻すと、前にもランドセルを発見。ランドセル単体ではなく、もちろん背負っている人もいる。
「たうったう!」
万実音ちゃんに二日連続で会うとは予想外だった。ランドセルについている給食袋が木にぶら下がった子どものように揺れている。そしてそのまま僕のところにくっついてきた。二日連続でくっつくとはさらに予想外だ。
「たうっ……たう……?」
花凛がうなるように僕のあだ名を口にする。
頭の上にはてな型の雲が観察できそうな気もした。
「たうったうっていうのは……この万実音ちゃんがつけてくれた……僕のあだ名なんだ」
「あだ名……こんな小さくて可愛らしい女の子と親しくして……これは超ずるいよーお兄ちゃん! わたしも、たうっお兄ちゃんたう、って呼ぶね!」
そこまで長くしてあえてお兄ちゃんをサンドイッチして何がしたいんだろう?
しかも花凛だってたうったうだからな。自分の苗字が田植という自覚が雲の果てまで飛んで行ってしまったのかもしれない。
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