手つなぎバランス記念
「凛太の作ったお子様ランチには、小さな女の子を誘惑する成分が入っているに違いありませんわ。効き目は二週間ほどは少なくともあるようですわね」
あれから店員さんに助けられ、無事その後は何事もなく僕もみかんも買い物を終えた。
帰り道で、みかんは僕の隣を歩きながら、万実音ちゃんが二週間ほど前に僕のお子様ランチを食べたこと、そして先ほどの出来事からそう仮説を立てた。
「いや……たまたまぶつかっただけなんだけど……」
「いえ、あれはきっとぶつかるようにプログラミングされていたのですわ。電動カートまでも誘惑する、凛太のお子様ランチは恐ろしいですわね」
電動カートにお子様ランチを食べさせた覚えはないんだけど……
「ところで」
「はい……」
「私は昨日凛太のお子様ランチを食べましたわ」
「そうだな……」
「私も誘惑されましたわ」
なにこれ。自分で立てた仮説に自分が当てはまるアピールを始めた。
「つまり、まずは手繋ぎから、そのあとは一緒に密着してマンションまで行きますわ」
「残念だが、僕の手は買い物袋でいっぱいで……というかみかんだって持ってるじゃないか……」
僕はもともと買うものが多くて、みかんはもともとは少なかったはずなんだけど新発売のお菓子を見つけたりしてしまったので、二人とも両手に買い物袋を下げている。
「ならば段階を飛ばして一気に密着ですわ! あ、でもやっぱり手も繋ぎたいですわね。凛太、頭の上に買い物袋を載せるのですわ。前に地理の教科書にそうしている人が乗ってましたわ」
確かに地理の教科書にどこの国の人だったか、頭に荷物を乗せて運んでいる人の写真が載っていた。
「いや……僕やったら五秒くらいも持たないと思う」
「……五秒でもいいですわ」
「え……」
意外な返答に僕は戸惑った。
僕のみかんがこれまでに手を繋いだ時間を累計すればかなりの時間になるだろう。
でも、最近は、関係が一歩進んだからこそ逆に緊張してしまい、手を繋いでいない。
「仕方ない……」
僕は左の買い物袋を右の買い物袋に突っ込んだ。大して無理やりではないかもしれないけど、少なくとも気持ち的には無理やり突っ込んだ。
「で、僕の左手は空いたが……」
みかんも手を空けなければ、手を繋げない。
「私も空いたですわ」
左隣を見ると、みかんが頭に買い物袋を乗せていた。
「なぜできるんだみかん……」
「できますわ。ダンスはバランス感覚が重要ですのでこれくらいできて当然ですわ」
みかんはそのまま喋ってこっちを向くまでして見せた。すごいな。
感心していると、いきなり僕の手を握ってきた。幼馴染から、僕の好きな女の子の手に変わっていた。手に来る感触は、久々のみかんの手だった。そして、みかんは少し身体を僕に寄せて来た。いや、これも慣れてる。うん。お子様ランチを作るのよりもさらに慣れてるはずなんだ。
マンションの前まで来た時、
「決定的瞬間を捉えることに成功! 記念すべき一枚だよー。かしゃりん」
マンションの僕の家のドアの前で、花凛がカメラを構えていた。
「なぜカメラを持っている……」
「雲の観察の宿題をしてて写真をとろうと思ったらちょっと偶然にもいい感じのお二人がいたのでとったところだよ、お兄ちゃん記念に欲しいー?」
「私が欲しいですわ」
え、みかん欲しいのかよ。
「いくらバランス感覚のある私でもここまでずっと乗せてこれるとは思いませんでしたわ。ですからその記念に。きっと凛太と手を繋ぎたい思いが強かったからここまで落とさなかったのですわね」
「記念……」
その記念かよ。確かに僕と手を繋いだ記念ならばどこまで遡ればいいか分かんないもんな。
バランス感覚の方が大事だよな。
僕はみかんの手をそろそろ離そうとする。
が、みかんは、初めてお子様ランチを食べる小さい子がフォークを持つ時のように、僕の手をしっかりと握っていた。
だからもう少し手を繋いでいようと思った。
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