たうったう


 料理部の活動が終わり、学校を後にした僕は学校と家のちょうど間くらいにあるスーパーに寄った。朝冷蔵庫を見ながら書いた買い物メモがポケットの中に存在することを確認していると、


「凛太〜お疲れですわ」


 後ろからみかんがやって来た。あ、いつも通りに戻っている。


 みかんはやたらとテンションが高い時も、しょんぼり気味の時も、あと今日みたいに謎な時も、ダンスをやると大体元に戻る。


 ダンスをやると気持ちがリセットされるのだろうか。


「みかんも買い物か……」


「そうですわ。お母さんから細々としたものを……コンビニにも売っているかもしれないけど、せっかくだから凛太を手伝いに来ましたわ」


 みかんは僕がよくこのスーパーに来ることを知っている。僕がいるだろうと思って来てくれたのか。


「ありがとう」


 ぼそぼそとならずに、すっとお礼の言葉が出た。


「では、行くか」


「行きますわ」


 自動ドアが開いて、僕とみかんは入店した。


 さて、このスーパーについて説明を少ししないと。


 値段普通。品揃え普通。学校と僕の家の間にあって便利。


 おおなるほど。確かに僕がよく行くわけだ。しかし、このスーパー、色々挑戦的なのだ。値段普通品揃え普通で何も挑戦してない、と見せかけて……


「いらっしゃい! 今日から電動カート週間だよ。ってことで今週はぜひ電動カートに乗ってお買い物をお楽しみくださいな」


「電動カート……」


「お年寄りも体の不自由な方も、小さな子供も。みんな楽しく楽に買い物できるように電動カートの開発が盛んなんだよ。てことでここでも試験運行してるってわけよ」


「なるほどですわ」


 みかんがあっさりと納得する。何も言っていないが、僕も納得している。ここで納得しないと買い物をさせてくれない雰囲気がだだよってるし。


 前も色々やっていた。レジ袋を有料にしてもエコバッグを持ってこない人がいるので、レジ袋の口を開けるのを超難解にしてみたり、ペットボトルのリサイクルを推進するために、ペットボトルのリサイクルボックスに一本ペットボトルを入れると二分の一で割引券が排出される機械を店中に配置したり。 


 ただ、それにしても、今回が一番すごそう。


 前におおきな買い物かごが付いている電動カートを、僕とみかんはそれぞれ受け取った。


 スイッチを入れると、カゴの少し手前あたりについている画面が光った。


「ご利用ありがとうございます。まずはあみだくじをどうぞ」


「あみだくじ……」


「今日の運勢をどうぞ占ってくださいな」


 運勢……。なんの狙いがあってここにあみだくじを導入したんだよ。


 とりあえずやってみた。右から二つ目を選ぶ。


 電動カートに乗ったミニキャラがうぃーんと動いてゴール。そして結果は、


『まあまあかな。頑張れ!』


どうも、頑張ります……。  


「恋の進展の予感……! だけど積極的になりすぎるのは気をつけて! ラッキーアイテムはピンク色の買い物かご、だそうですわ。恋の進展……。凛太との関係がさらに深まるってことですわね!」


 みかんの方、情報量僕と比べて多すぎないか。すごい格差。しかもピンク色の買い物かごって難易度高すぎ。ここにあるの緑か灰色だけど。


 まああみだくじ占いはもともとなんであるのかわからないようなものだからほっといて、早速買い物を始めよう。僕はレバーを操作してみる。

お! 移動した。



 あっという間になれたのでぽんぽんカートに買うものを入れていると、


「あわわ、と、止まらないよ〜」


 こっちに一人の女の子が乗った電動カートが突進して来て、僕とぶつかりそのまま僕の電動カートの右の車輪と相手の女の子の電動カートの右の車輪が見事がっちり噛み合ってしまった。


「止まった……」


 女の子はほっとしたようにそう高い声をはき出す。ちなみに僕の電動カートも止まったんですけど。


 そして、女の子が投げ出され、僕のところに飛び込んでいる状態になっている。


 よく見ればこの女の子知っている人だった。二つのお団子結びの小さな頭。そう、この可愛い可愛い女子小学生は……


「万実音ちゃん……?」


「あ、たうったう!」


 顔を僕にくっつけたまま小さな口を動かして僕を呼んでくれる。


 万実音ちゃん。料理部は、児童館で行う調理実習を時折手伝いに行っている。その児童館の調理実習にいつも参加している小三の子だ。


 以前、調理実習の時に僕がお子様ランチを作ったことがあった。万実音ちゃんは、おいしかったからそのお礼にと、苗字が二文字の僕にあだ名をつけようと一生懸命考えてくれた。


 その結果たうったうになった。


「凛太? 何をしているのですわ? お店の人に知らせてきますわ……」


「ああ、そうだな……そうしてくれると助かる」


 みかんは頼りになるな……。しかし、なぜそんなに強く小ねぎを握りしめているんだろう?


 みかんはすぐに戻って来た。


「はい、もうすぐ来てくれるみたいですから今すぐに離れなさいですわ! ……どうして離れない……もうこうなったら私も車輪を絡めますわ! 積極的に突進ですわ!」


 これ以上被害を大きくしないでみかん。占いでも積極的になりすぎるのは気をつけてって言っていたよな。


 このまま離れたらどっちかがバランスを崩す恐れがあるので、悪いけど僕はもう少し万実音ちゃんとくっついてる予定だ。みかんには頑張って我慢していてほしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る