みかんっぽい桃ケーキ
浜辺さんがカプセルから取り出したグリーンピースをごはんにかけて食べているのを優しく見守りながら僕はその場を離れ、中等部四人の様子を見に向かった。
さっき、なんか謎のケーキ作ってたけど……大丈夫かな……。
いや、爆発とか危険な感じにはならないとは思うんだけど。
「何作ってるの?」
僕はケーキ? のようなものを作るのに熱中している四人に小さく声をかけた。
「あっ、田植ちゃん! いいところに来た。てなわけで味見してみてよ」
この馴れ馴れしい後輩は、第二の幼馴染だとか予想を立てる人もいるかもしれないが、そんなことはなく、中二の後輩だ。名前は萌門ももんももという。
名前に「もも」を二箇所含むということはこれはもう桃を使った料理を極めるしかない! という理由で仲良しの木屋戸三愛きやとみあと一緒に料理部に入部した。
木屋戸さんは黙々と頑張るタイプで、今も萌門さんの隣で調理を続けている。
「味見か……わかった……してみるよ」
「やった! もうすぐできるからちょいと待ってね田植ちゃん」
まだ少し時間がかかるらしいので、残った二人も紹介してしまおう。
一人は中三、もう一人は中一。
中三の方は、中見優里なかみゆりさん、中一の方は阿田真由利あたまゆりさんである。 この二人は見事に名前通り、ちょっとお二人でいい感じの関係だったりする……と言いそうなところだけど、普通に仲がいい先輩と後輩なだけだ。だけど二人合わせてダブルゆりと呼ばれている。
「ダブルゆり! お、おっけーね、じゃ、おいしょのほいっと。田植ちゃん食べて見て!」
「いただき、ます……」
これはみかん……? いや、ケーキ作ってたよな。
「どうですか? この本物のみかんのようなケーキ。ちなみに食べると桃の味するよ!」
「桃なのかよ……」
ここまでみかんにこだわってからの味は桃なのかよ。
まあ萌門さんは桃を極めるために料理部に入ったから仕方ないか。僕がお子様ランチを極めるのに料理部に入ったのと同じだ。
そして、食べると、美味かった。ももの味がする。あと見た目のせいでそう感じるのかもしれないけど、少しみかんの味もした。
「美味しい……すごいな」
僕は素直に後輩たちを褒め称える。
「よし、私たちも食べよう!」
僕の感想を聞いてから萌門さんがそう言って、木屋戸さんがさっとお皿を用意して、ダブルゆりがフォークを優雅に取り出す。
ていうか、僕に先に食べさせたところを見ると、自信なかったのかな……本当に美味しかったけど。
「美味しそうですね!」
そこに浜辺さんがやってきた。
「浜辺さんもどうぞ!」
「いいの! ありがと! グリーンピースかけて食べよ!」
いや、なんで桃の味するケーキにグリーンピースかけるの? あ、もしかしてグリーンピース余ってるのか……かわいそうに。
僕は浜辺さんが持っている大量のグリーンピースを少し取ってあげる。後で食べよう。
「田植先輩! ……ありがとうございます……! やっぱりそうやって気づける男だから彼女できるんですね!」
「はあ……」
「かのじょ、ってなんですか?」
阿田さんが、僕よりも頼れるときっと思っているであろう中見さんに尋ねる? 中一の純粋な疑問。いや、中一にしても純粋すぎる。
「彼女っていうのはね、そうね、つまり生涯にわたって結ばれるってことよ」
おお……。なんか結構色々雑だな。一生別れない前提だ。まあ僕はみかんとは一生別れたくないけど。
それにしても中見さん、確か成績優秀で尊敬されるキャラだった気がするが。僕もそのくらい雑に回答すれば現代文の成績上がるかな。
「結ばれる、つまり結婚……それはちょっと……過程を経た上で子供が産まれちゃいます……」
え、阿田さん、ちょっと待って、そこは知ってるのか。一体どういう経路で彼女の意味も知らずにその情報を手に入れた……? いやそれとも何も知らずに今の発言をした可能性もある。
真相を尋ねることはもちろんできない。料理部永遠の未解決問題となってしまった。
と、こんな感じだ。いや楽しいは楽しいからな。だけど、結局ふりかけの研究はほんの少ししかできなかった。
二ヶ月後の文化祭で、究極のお子様ランチを振る舞う予定であるというのに。
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