カプセルグリーンピース

 放課後になった。


 僕は料理部の活動場所である調理室へと向かった。


 朝から放課後の場面にいきなりなったってことはさては授業サボったな、って思った人がいるかもしれないけど、きちんと一時間目から六時間目まで出席した。うん、出席はした。


 色々と個性的な人がいて、面白いこともあったりするんだけど、今日はそこまででもなかったので、また別の機会に。ちなみに僕はクラスでは少し変わった人だと見られている気もする。自己紹介の時に、お子様ランチの話を始めてしまったことが原因の可能性が極めて高い。 



 まあ過去を振り返っても仕方ない。料理部のことを考えよう。


 しかし、調理室室へと向かう途中で、みかんに出会った。


「ああっ、凛太……ですわね」


 僕の家にいる時のみかんは、元気な普通の女の子だ。


 しかし学校にいて、制服を着て少し長めの髪をきちんと整えていると、元気なお嬢様風になる。だけどこの時のみかんはどちらでもなかった。


「みかん……ダンス部行ってらっしゃい」


「はっ、あっ、いっ、行ってきますわ!」


「おお……」


 みかんはうつむいてささっと行ってしまった。だけど一瞬、こっちを向いていつものみかんの顔を見せてくれた。



 調理室の扉をふりかけのことを考えながら開けると、僕以外の、幽霊部員を除く全部員が揃っていた。


 僕の通う渚ヶ丘学園は、中高一貫だ。部活は、中高一緒のものと、別のものがある。


 料理部は前者。


 中高一緒だから部員も多く、総勢三十名ほど……と一度は部活紹介してみたい。


 実際は十人。原因は、料理部以外に、グルメ部があるせいだと思う。食べるのが大好きな人はみんなそっちに行ってしまうのだ。


 さらに、兼部をしている人、毎日放課後秋葉原に行くことを日課としている人、毎日デートに行く人、なぜかこない人がいるので、大抵、僕を合わせて六人だ。


「田植先輩! こんにちは! 今日は田植先輩に見せたいものがあります! お子様ランチを極める先輩が喜ぶプレゼントです!」


 いつもものすごく元気で、マスクをしていてもすごいはきはきした口調になっているこの女の子は、高一の浜辺菜奈はまべななさんだ。


 他の四人は今は何やら謎のケーキを作っているので後で紹介しようと思う。ちなみに全員中等部の人たちだ。


「浜辺さんこんにちは。で……プレゼントってなんだ……?」


「ちょっと待ってください! 大きいのですが頑張って今持ってきます!」


「大きい……?」


「はい!」


 浜辺さんはくるりと体の向きを変え、ぱたぱたと調理室の奥へと小走りで消えた。



 浜辺さん、ほんとにとにかく元気で、そんでもって仕草は女の子らしいから、きっとモテるんだろうな、って思う時もあるんだけど、この後輩、少し独創的な発想の持ち主というか、時々僕は驚かされるのだ。


 がらがらがら


 そして、浜辺さんが引いてきたのは、機械だった。


「カプセルトイの機械……」


 ガチャっと回すとおもちゃが出てくるやつだ。


「そうです! お友達のお店が商店街で前使ってたのを譲り受けました!」


「そうか、それはすごいな……」


「洗って消毒もしたので、衛生管理もばっちりです!」


「衛生管理……? まさか食べ物を……」


「はいっ! お子様ランチについているコインあるじゃないですか、あれを入れるとおもちゃが出てきますよね! それを応用してですね、カプセルトッピングを計画しました! これでさらにお子様ランチが進化すること間違いなしだと思います!」


「おお、そうか……」


「では早速お試しにどうぞ!」


 浜辺さんからコインを渡され、僕はそれを入れてガチャっと回した。ゴロンとカプセルが出てくる。


 中を見てみれば、たくさんのグリーンピースだった。ぎっしり。


「なんだ、これ……」


「おめでとうございます! グリーンピースのトッピングですね! ライスにかければグリーンピースライスになります!」


「グリーンピースのトッピング……」


 花凛がこれ見たら気絶するか気持ち悪くなってお手洗いに駆け込むかもしれない。


「……こんな感じです! どうですか? これでさらに盛り上がるお子様ランチができそうな気がします!」


「まあ……そうだな……取り入れる検討をしてみるよ……」


「はいっ! ありがとうございます!」


 いつの間にかマスクを外した浜辺さんは満面の笑み。


 独創的な提案をしてくれる後輩がいて、僕は幸せだな。

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