第40話 飯野美智という存在
昼休み。音楽準備室。
「・・・・・・あれ?」
室内にいるのは二人だけ。
扉の前で棒立ちになっている恵と、反対側の窓を背にして机に座る美智。
恵からは逆光にも関わらず、美智が意地悪そうにニヤニヤと笑っているのがはっきりとわかる。
「それじゃ、お待ちかねの種明かしタイムだよ~♪ なんでも聞いてね」
「・・・・・・ホームルームからここまでの記憶が無いんだけど」
「気を利かせてスキップさせたんだよ。同じことの繰り返しは見ててつまんないもんね」
「・・・・・・はぁ~、なんだそりゃ。お前、神様なのか?」
「あぁ~、やっぱ気づいちゃったかぁ」
「は・・・・・・?」
「正しくはこの世界を作った存在、かな? まぁ神野くん的には同じような意味で言ったんだろうから、うん、せいか~い♪ ぱちぱちぱち~」
楽しそうに拍手をする美智。
恵はまだ状況を理解できていない。
「な、何言ってんの・・・・・・?」
美智が拍手の締めに手を一つ打ち鳴らす。
一瞬で、二人のいる場所が学校の屋上になっていた。
「っ!?」
「そう、私は神様。創造主。始まりの誰か。何も無かったここに世界を作ったのが、私」
彼女の言葉切れ目切れ目で次々と周囲の景色は移り変わる。
駅前。恵の部屋。海岸。そして、あの日の電車の中。
通路を挟んで向かい合わせで座る二人。
恵は視線に美智への非難の意志を込める。
「神様なら、どうして助けてくれなかったんだ?」
「言ったでしょ~? 君は主人公なの。困難に直面したら自分の力で乗り越えなきゃ。私はそれを見て、ハラハラドキドキしたりワクワクしたりして楽しむだけ」
「なんだそりゃ・・・・・・。ループも、あの未来人も、お前が仕組んだのか!?」
恵の怒りを込めた叫びも、美智は微笑みだけで受け流す。
「全部が私のせいってわけじゃないよ? 私は、君を中心に色々動くようにしただけ。悪い未来人の企みはあの人本来の悪意だし、黒川さんの寂しい小学校時代はあの子の人格の問題」
「・・・・・・なんか、まるで話が通じないって感じなんだけど」
「君が私のことを理解する必要はないよ。君は私の物語の主人公として活躍してくれればいいの。私は作者兼読者、それから些細な脇役として、時々ちょっかいをかけるだけだから」
恵には彼女の言っていることが分からない。
ただ彼女が巨大な存在であることだけが感じられた。
だが、恵の中では神の登場よりも重大な話が残っている。
「そうそう、その話をしなきゃね」
「っ! 心の中まで読むのかよ」
「わかってるよね? まだ終わってないってこと」
「・・・・・・黒川さんを助けなきゃ」
「どうすればいいか、わかってる?」
「いや、正直困ってる。放課後になる前に黒川さんを連れ出すくらいしか・・・・・・」
「あれ? 気づいてないの? 全然? さっぱり?」
美智は意外そうに目を丸くした。
彼女が立ち上がり恵に近づくと、いつの間にか世界は昼休みの音楽準備室に戻っていた。
「ぷっ、あははっ! あーそっかー、なかなか予想通りにはいかないねぇ、あはは。これも自由意思を設定したおかげかなぁ」
「な、なんだよ。どういうことだ?」
「んーん。君たちの意外性が面白い、ってこと。特に、神野くん、君は一番面白いよ。大好きっ♪」
「はぁっ!?」
美智の唐突な言葉に思わず顔が熱くなる恵。
彼の心中を視ているのか、美智はじっと視線を合わせたまま囁きかける。
「じゃあ、私から一つだけアドバイス。怪我人を見つけたら、まずはその人の無事を確認すること」
「え? け、怪我人って、だってあんなのどう見たって」
「はい、じゃあそういうことだから、あとは頑張ってね神野くん」
寄り添った美智が、恵をそっと後ろに押す。
ほんの小さな力のはずが、恵には踏ん張ることもできなかった。
「大丈夫、君には出来るよ。ずっと主人公を目指してた君には素質があるもの。これから起こる困難も、それを乗り越えて得られる楽しい時間も」
恵の意識が急速に遠ざかっていく。
「全部、神様からのプレゼントだからね」
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