第33話 ~七回目~ 和解、決意

 雫とは駅で別れた。

「また明日ね! 神野くん!」

 彼女は上機嫌に手を振り、跳ねるような足取りで家路を駆けていった。

 雫は現状に何の不満も無いのだろう。

 むしろ人生の絶頂期とさえ感じているのかもしれない。

(・・・・・・こんな状況、やっぱり間違ってる)

 だが、恵は違った。

(黒川さんに必要なのはこんなまやかしじゃなくて、普通の、学校で友達としゃべるような、そんな時間なんだ)

 家に向かって歩きながら、恵は電車での美智の言葉を思い出していた。

(友達を作る・・・・・・。一歩踏み出す勇気・・・・・・。きっかけ・・・・・・)

 教室で見せていたものとは違う美智の表情、声音。だが恵には、あれが彼女の本当の姿だと感じられた。

 理由は分からないが、美智のあの何もかも見透かしたような態度に安心感を覚えていたのだ。

(ループのことも知ってたみたいだし、世界を作ったみたいなこと言ってたよな。・・・・・・飯野って、何者なんだ?)

 やがて自宅の灯りが見えてきた。

 恵は足を止め、家を見上げた。

(・・・・・・多分、今が俺の物語のターニングポイント、なんだろうな)

 恵は少し視線をずらし、夜空に向けた。

 すっかり星が煌めく時間となった空。

(飯野が言ってたように、黒川さんに友達を作らせる方法は簡単なんだ。それこそ色んな物語で色んな主人公がやってきたことだ。でも、それをするには・・・・・・)

 猫の瞳のように明るい満月。

 その隣でひと際強く輝く星。

 恵の口から息がこぼれた。

(やっぱり、あいつの助けがいるよな・・・・・・)

 恵はもう一度息を吐きだすと、残り少ない家路を辿り直した。


 帰宅して恵が最初にしたことは、アルジャーノンとの会話だった。

「アルジャーノン、いるか?」

「どうした? 恵」

「アルジャーノン、ごめん。やっぱり俺だけじゃどうにもならない。力を貸してくれないか?」

「ああ、もちろんだとも。私の目的は、最初から君の手助けをすることだ」

「ありがとう。・・・・・・なぁ、アルジャーノン」

「なんだね? 恵」


 恵は強い意志を持って、白猫と視線を合わせる。

 アルジャーノンは変わらない無機質さで、物語の主人公と視線を合わせる。

「俺、このループから出るよ」

「・・・・・・ああ、いいだろう。私に出来ることなら、どんなことでもしようじゃないか」

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