第21話 ~五回目~ 忠告
二人きりでいるところを見られるのは恥ずかしい。
雫が言うことに恵自身も頷き、互いに別々の方向から教室へ戻ることにした。
彼女と別れて中庭を歩く恵の前に、一匹の白猫が花壇の陰から現れた。
「あっ、アルジャーノン!」
周りを確認してしゃがみ込んだ。先ほどと同じように野良猫を相手する風に装う。
恵は小声で文句を投げかけた。
「何してたんだよ。お前が逃げ出すから、えーっと・・・・・・。まぁ、特に困ったことにはならなかったけど」
「独断で行動したことについては謝罪しよう。ただ、あの状況では緊急対応の必要があったことは理解してほしい」
「あーっと、つまり、黒川さんにお前が未来人だってバレるのはマズイってこと?」
白猫は首を上下に一度振った。
「その通り。君と相談すべき事項が複数あるが、時間がない。一つだけ警告しよう」
「お、おう。なんだよ」
「黒川雫を信用するな」
簡潔に、ただ一言だけ告げたアルジャーノン。
恵はその言葉を聞いたとき、視界が晴れた思いを得た。
先ほどから漠然と感じていた不安。
それが解消されたわけではないが、漠然としていたそれが輪郭を持ったように感じた。
「恵。そろそろ教室へ戻れ」
「・・・・・・ああ。ありがとな、アルジャーノン」
「にゃー」
最後にわざとらしい猫の鳴き声を上げて、アルジャーノンは花壇の陰へ身を滑り込ませた。
恵もまた、教室に向けて歩みを速めた。
(そうだ。黒川さんがあんなこと言ったから頭こんがらがってたけど、あの子だって何も知らないとは限らないじゃないか)
歩きながら、恵は考えをまとめていた。
教室までの数メートルが何十倍にも伸びたような感覚を得て。
(黒川さんが嘘をついてる可能性。嘘はついてないけどあの子も間違えてる可能性。これがもしサスペンスものだったら、少なくとも黒川さんがキーマンってことは間違いなくて・・・・・・)
午後の残りの授業中、恵はその内容一切を聞き流してひたすら雫への対応を考えていた。
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