第19話 ~五回目~ 逃げる者、追う者
それから昼休みまでの間、恵は雫への接触を図り続けていた。
授業中はじっと見つめて、休み時間には直接声をかけていた。
しかし雫は、恵が近づくとすぐに席を立ちどこかへ逃げてしまうのだった。
追いかけると女子トイレに入ってしまうので、引き留めようがなかった。
(黒川さん、手に鏡を持ってたぞ? もしかしてあれで俺のこと見てたのか? そこまでするほど話したくないのか?)
恵は頭を抱えていた。
そんな彼を健一は前の席から面白そうに見守るのだった。
給食後の教室で、いつものように坂戸と若葉を含めた四人で雑談していた。
健一が楽しそうに恵に絡んでくる。
「ふふふ♪ どしたの、じんじん? ラブコメの主人公になっちゃったの?」
「違うって。・・・・・・あ、いや。そうでもないのかな」
「ワオ!」
恵の言葉に健一は目を丸くした。
芝居がかった大げさな動きで両手を上げ、驚きを表現。
「マジで!? そっかそっか~、じんじんもそういうの興味もっちゃったか~」
「なになに? 神野がどうかしたの?」
話に食いついた坂戸と若葉に、健一は恵の『主人公症候群』を説明した。
「つまりじんじんは、マンガみたいなことが自分に起きるのを待ってるわけなんだよね」
「わかんね」
「わかんね」
相変わらず他人からの理解は得られなかった。
「そんで今回はなんと、ラブコメが始まっちゃったってことなのかな~? ね~、じんじん?」
健一から冗談交じりで水を向けられる恵だが、彼は真剣な表情で思考を巡らせていた。
(どうにかして黒川さんと話をしたいけど、俺だけじゃいい考えなんて浮かばない。それより、この自称恋愛マスターのけんちなら何かアドバイスしてくれるんじゃないか?)
顔を起こし、まっすぐに健一を見る恵。真剣な表情で頼みこんだ。
「けんち、頼む。逃げる女子と会話する方法を教えてくれ」
「じんじん・・・・・・。マジなんだな」
健一は感極まった様子で瞳を潤ませる。
彼にしてみれば、親友に初恋が訪れたという状況だった。応援にも熱が入るというもの。
「分かった。俺の豊富な経験に裏打ちされた確かなアドバイスで、じんじんをトゥルーエンドまで導いてやるよ!」
「お、おぅ・・・・・・」
一方恵は、友人の異常なやる気に若干引いていたのだった。
「いいか? じんじん。あの子とはまだフラグが立ってない状況なんだ。まずはとにかくイベントを起こせ。直接顔を合わせるんだ!」
健一からの助言に従い、恵はとにかく雫を探していた。
給食後、すぐに雫が教室を出たのは確認していた。
彼女がいそうな場所など検討もつかない恵だが、
「とにかくフラグを立てるんだ、じんじん! そうすればエンディングまで一直線だぜ!」
というありがたい教えに、今はすがるしかなかった。
「フラグフラグって、簡単に立てられれば苦労しないって。だいたい、避けられてるんだからどうしようもないんじゃないの?」
一年生の教室がある二階を見て回った。
廊下の端から端まで探す恵の後ろを、こっそりと着いてくる姿があった。
「でもあれだけ避けられる理由ってなんだ? 好かれることはしてないけど、嫌われることだってしてないと思うんだけどなぁ・・・・・・」
階段に辿り着き上階に視線を向けた恵。
三階と四階はそれぞれ二年と三年の教室がある階だ。探すとしたら、まずは一階だろう。
そう考え階段を降りる恵の後ろに、壁に隠れて着いてくる姿があった。
「単純に恥ずかしいだけなのか、それとも、何か隠しごとがあるのか・・・・・・」
一階は見るところが少ない。職員室や保健室は素通りし、図書室をざっと眺めてすぐに立ち去った。
あとは中庭か校庭か。しかし廊下から見えた中庭にはいなかった。
(昼休みの残り時間、まだ結構あるな。未来人の話をするなら、できるだけ二人きりがいいよな。それなら校庭はダメ、かな。・・・・・・それなら、あとは一つか)
そう考える恵の後ろを、着いてくる姿があった。
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